第115話
病室に長居するとよろしくないらしく、ナノとステラは夜には追い出されてしまった。明日の朝に、とナノが伝えるとイーズは眉尻を下げつつ、静かに笑った。
イーズが眠っているあいだ、あまり食事を取れずにいたがようやくちゃんとお腹が空いてきたので、宿に向かう前に、夕飯を食べることにした。
「泣きすぎて鼻の下が痛い」
「鼻水すごかったもんな、ナノ」
「……生理現象だ。でも、よかった。イーズが生きていて。本当に怖かった」
刺された直後のイーズを支えているときの温度を思い出す。血は温かいのに、その血で濡れたナノの手はひどく冷たかった。
イーズのいない世界を想像すると、このまま身体がばらばらに壊れてしまうのではと思うほどに、震えが止まらなかった。
「……つらいな。切り捨てられたほうが、ましだった」
「またステラはそういうことを言う」
「ごめん、そんなつもりじゃなくて。その……自分は自分で守るし、守れなかったらそこまでなんだ。それが当たり前だと思ってた」
子どもが叱られたときのように、ステラはしおらしい。そんなふうな顔をさせるつもりはなかったし、ステラを責めているような気分になって、ナノはステラの手を握った。
ステラは目を丸くしてナノを見下ろし、手元に視線を移す。
「ナノの手、あったけえ」
「そうか……ステラはちょっと冷たいな」
そう言ってさらに力を込めると、ステラが遠慮気味に握り返した。
「ステラ、学校を作ろうとしているやつが、そんな一匹狼では困る。学校は集団生活だからな」
「……痛いところ突くな」
ステラは苦笑するが、ナノの言葉を否定はしなかった。
念を押すようにステラの手をさらに強く握る。わかったと言わんばかりにステラは無言でナノの手をしっかりと握り返した。
「イーズのことは、本当にごめん」
「もう謝るな。今はとにかくイーズの回復を願うだけだ。しつこい男は嫌われるぞ」
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