第114話
堰き止めていたものがどっと溢れ、ナノはイーズの胸に顔を押しつけて泣く。イーズの胸の音が、生きている音が聞こえた。
ナノ、と呼ぶ声は小さくて弱々しかった。イーズの手がナノの頭に触れると、いつもの羽のような重さではなく、人の手の重さだった。
「……ナノ、顔、けがしてる」
イーズは指先をナノの頬に滑らせた。頬骨の少し下あたりに絆創膏が貼られていて、イーズの指先がそこをかすめる。
大きな傷でもないのに、イーズは悲痛な面持ちでその傷を撫でた。
「ぐずっ……うぐぅ……医者を探すときに……こ、転んでぇ……」
「痛かったよね。ごめん」
「痛いのはイーズのほうだろう……!」
「…………うん、ごめんね。ごめん」
イーズはナノを引き寄せて腕で包み込む。そのまま身体を預けてしまいそうな温もりに頬を擦り寄せ、ここにあるものだと確かめる。
イーズはちらりとステラに目を向ける。
「ステラ、右側なら空いてるよ」
イーズは右手を軽く上げてひらひらと振る。
「なに?」
「仲間に入りたそうだったから。ステラもおいでよ」
「はあ? ばかじゃ……ねえの……」
イーズはなにも言わずに微笑むだけだ。
わざとらしく悪態をつきながらも、ステラはイーズに近寄り、胸のあたりにぽすんと頭を置いた。ステラの頭を少し乱暴に撫でながら、よかった、とイーズはか細い声で言った。
それから医者や看護師が病室にやってきて、イーズの診察を始める。まだ熱でぼんやりしていたものの、イーズはしっかりと受け答えもできているし、傷も幸い急所から外れていた。
ひとまず熱が下がり、傷口の抜糸が終われば退院できると医者から説明を受けた。
「応急処置がよかったようです。命拾いしましたよ」
医者がステラのほうに身体を向けた。
「……ありがとう、ステラ。さすがだね」
イーズに礼を言われるも、ステラは目を伏せたままなにも言わなかった。
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