10 ひとりになりたくない

第113話

 イーズはずっと眠ったままだった。


 あの後すぐに病院へ運ばれ、命はかろうじて助かったけれど、ここ数日熱が下がらず苦しそうに呼吸をしている。汗を拭いても気づく様子もなかった。

 静まり返った病室はユーリが亡くなったときを思い起こさせる。


 ナノはイーズの手を握り、生きているのを確かめる。早くいつもの笑顔で、そっと頭を撫でてほしかった。


「イーズ、まだ目覚めない?」


 ステラが静かに病室に入ってくる。ナノの代わりにネモ宛の手紙を出すため、郵便局へ行っていた。そのついでにナノの分まで軽食を買ってきてくれた。

 ステラがイーズの顔を覗き込む。


「苦しそうだな」

「……ずっと熱が下がらない。目覚める気配もなくて」

「……おれが刺されてればよかったのに」


 ステラが吐き捨てるように言った。


「ステラ、それは本気で言っているのか」


 ナノは勢いよく立ち上がりステラに掴みかかる。奥歯が折れんばかりに噛みしめていた。

 ステラの胸のあたりを力いっぱい掴むあまり、手ががちがちと震えた。その震えを押さえつけるように、ステラが手を重ねる。


「だってそうだろ。イーズが傷つく理由なんてねえじゃん!」


 ステラは戸惑いつつも、自分の発言を訂正するつもりはない様子だった。


「ああ、そうだ。だけどそれはステラも同じだ。だれも傷つく理由なんてない! イーズはステラが大切だから庇ったんだ。そんな言い方をするな!」

「おれなんか庇ったって意味ねえよ!」

「…………ステラ、うるさい…………」

「うるさいって言うほうがうるせえん……うん?」


 ナノとステラがベッドに目を向ける。

 ぼんやりした目をしながらも、微かに目を開けふたりを見ていた。ふーっと一度大きく呼吸をすると、口元にいつもの笑みを浮かべていた。


「イーズ! わ、うわああ……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る