第165話

 今朝の朝刊で、未発表の青の絵画が見つかったと大々的に書かれていた。


 アヴァリーはあの後すぐに青の絵画とユーリが亡くなったことを発表したらしい。かつての天才画家の遺作とあって、これは大きなニュースになった。これからユーリによって描かれたものかどうか、専門家たちの間で検証が始まる、と記事には書かれている。


「ふん、人を傷つけて奪い去っておきながら! ワシらの声は届かんのか、くそったれ。あの男がいい思いをしているのかと思うと腹が立つわい! ワシやナノはこんなけがをしたのに。見ろ! イーズとステラもぶっさいくになっておるんじゃぞ」


 四人はソファに座っていたイーズとステラに目を向ける。殴られた顔が腫れあがり傷痕も赤黒くなっており、見るだけで痛々しい。


「おまえの親戚じゃろう、どうにかならんのか」


 ルークは眉毛を下げ、唇を軽く噛んだ。


「……ごめんなさい。彼の親は代々シオン家の工場を継いでいて、僕の両親も含め一族で経営に携わっているので……だれも逆らえないんです。その息子であるアヴァリーにも同じです。今回の件ももみ消されてしまうでしょう。兄が青の絵画を最初に売られたときもそうでしたし」


「はあ! みんな我が身かわいさじゃの!」

「ネモさん、その……ルークさんにも家族がいるから……やっぱり無理は言えない。ルークさん、あの……」


 戸惑うナノの不安を取り去るように、ルークは目を細める。優しげなカーブを描いた目からは、はっきりとした思惑は読み取れない。ただ、ナノを気遣う心は伝わってきた。


「ありがとう。本当に情けない話です」

「くそっ! 結局は嫌なやつが勝つ世の中なんじゃ。あの絵は金に換えるための絵なんかじゃないのに……!」


 ネモがシャッと牙を剥く。

 そんなネモを見て、ルークはふうと小さく溜息をついた。

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