14 小さな星

第164話

 アヴァリーに絵を奪われて二日後の昼、ルークがネモの家にやってきた。

 三角巾で腕を吊るナノを見て、ただでさえ顔色の悪いルークの顔から、一気に血の気が引いていた。


「こんなことなら、きみを旅に出さなきゃよかった」

「ごめんなさい……」

「……でも、青の絵画のために戦ってくれたんですね。ありがとう」


 ルークは両手を伸ばしてナノの頭を撫でた。触れ方がユーリと似ていて、目の奥がつんと痛んだ。


「青の絵画を渡せなくて……ごめんなさい」

「いえ。あなたが……無事とは言えないけれど、またこうやって会えただけでも、よかった。お疲れ様」


 ルークの声は穏やかで、ナノの心をじんわりと温め、包み込んでくれる。目頭がじわりと熱くなり、ナノは目をこすった。


「おまえがルークか」


 足を包帯でぐるぐる巻きにされ、車椅子に固定されたネモがルークに近寄る。本当は松葉杖でも歩けるのだが、今回のことでけがが悪化してしまい、医者からこってりと叱られて、許可が出るまで車椅子使用を命じられた。


「はじめまして。ユーリの弟の、ルーク・シオンと申します。生前は兄がお世話になりました」

「……ユーリそっくりの顔で、丁寧な話し方をするんじゃないわい気色悪い」


 ネモの態度にルークが戸惑う。堅苦しい態度でなく仲よくしましょう、という意味であると、ナノがこっそりルークに伝えた。ルークはネモの態度に対し、嫌がるそぶりを見せることなく、少年のような笑みを見せた。


 アヴァリーに絵を奪われた後、四人は病院で治療を受けた。警察に今回のことを相談したものの、警察はあまり相手にしてくれなかった。

 

 青の絵画の話をしても彼らには通じず、結局はイーズとステラの喧嘩にナノとネモが巻き込まれた、という事実無根の結果で締められてしまった。警察は忙しいらしく、若者の話に積極的に耳を傾けたがらなかった。

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