第163話

 ナノはふらふらとアヴァリーを追う。もう少しでアヴァリーに追いつかんとするときだった。

 なにかが風を切り、アヴァリーが突然倒れ込んだ。絵画は抱えたままだ。


「な……っ! ちっ、くそ! おい、おまえたち!」


 アヴァリーの右足に一本の矢が刺さっていた。あたりを見渡しても矢を打った人物はいない。


「おまわりさーん! あっち! あっちで喧嘩ぁー!」


 街のほうから若い男の声が聞こえる。

 アヴァリーは舌打ちをすると、ふたりの男に指示を出して岩場近くに停泊していた小船に乗り込む。足を引きずり、険しい顔をしたままだった。


「あ! くそっ、青の絵画を……!」


 アヴァリーたちが乗った船が砂浜から遠くなっていく。青の絵画はすべてアヴァリーが持ち去ってしまった。


 ふらふらの足取りで、ナノは三人に近寄る。

 イーズとステラの顔は血が飛び散り砂で汚れていたし、ネモはステラに支えられないと立つことすらできないようだった。


「……イーズ、ステラ、ネモさん……けがを……」

「ナノもだよ。ちゃんと……守れなくてごめん」


 ナノはぶんぶんと首を振る。


「アヴァリーのやつ、突然転んだけどどうしたんだ」

「……どこからか、矢が飛んできたんだ。アヴァリーの足に刺さって……だけど、矢を打った人なんていなくて……」


 ナノはもう一度矢が飛んできた方向を向いた。人影はなく、建物のむこうから警察官らしき男性がふたり姿を現しただけだった。ナノたちの姿を確認するなり、血相を変えて近寄ってきた。


「……矢? まさか……いや……」


 ステラは遠くを眺めてから、小さく円を描くようにしてしっぽの先を振った。

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