第162話
「……あなたは、ひとりで生きているみたいだ。自分以外の人間が存在することをまるでわかっていない!」
「だからなんだ。いいかクソガキ。人間はひとりで生きて、ひとりで死ぬのさ。よりよく生きるために、利用できるものは利用し、富や地位を得る。便利な道具を使うのと一緒だし、害虫は駆除する。人も同じだ。どんな人間だってやっていることだろう」
アヴァリーはナノの髪を掴み頭を上げる。視線の先ではイーズとステラが顔から血を流しながら、取り巻きの男たちと殴りあっているし、ネモは足を押さえたまま震えて動けなかった。
「おまえだって同じだ。ユーリの絵を得るために、他人を巻き込み、傷つけている。使える人間を使っていることになるんじゃないか」
「それは……」
「なにが違う?」
イーズとステラは今まで見たこともないような形相で相手に殴りかかり、ネモやナノを守ろうとしている。自分も傷ついているし、相手は凶器さえ手にしているのに。
「己の弱さを使えるもので補う。おまえも俺も、すべての人間の根本は変わらん。息を吸うようにやっていることを、感情論で美しい話にしようとしているだけさ。実に愚かだと思わんか」
──違う!
反論したいのにナノの喉はぎゅうと締まったように声が出せなかった。
目の前が揺れ始めたところに、どさりとふたりの男が倒れ込んできた。イーズとステラが鼻血を拭い、足を引きずりながらアヴァリーとナノのほうへ近づく。
「うっせえよばーか! ナノとおめえは違う! たしかにナノはちびだし、喧嘩もまともにできねえし、重いもんは持てねえ。助けがなきゃ旅なんかできねえよ。だけど、助けるのはおれたちの意思だ」
「下等な獣人が! さっさと死んでおけばよかったものを。おまえの命など、一銭の価値にもならんのだからな。やれ、おまえたち」
ふたりの男は口の中の血を吐いてにやりとする。ステラとイーズにむかって殴りかかろうとした。その隙にアヴァリーは青の絵画をすべて抱えて、その場から立ち去ろうとする。
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