第161話

「お前のその目、言うことまであの女と同じだな。初めて見たときから虫唾が走ってたんだ。お気持ちで話を進めようとする低脳が俺は一番嫌いなんだ。殺したくなる。じゃあいったいなにが、信頼できる価値の指標になる? 金以外のものがあるのか? 言ってみろ!」


 ナノの胸ぐらを掴んでいた手に力が込もり、ナノはそのまま地面に投げつけられる。


「ナノ!」


 イーズが駆け寄ろうとするも、取り巻きの男に阻まれる。男は刃物を取り出してイーズに向けていた。

 ステラも前に出ようとするが、もうひとりの男がそれを許さない。


「やめろ! ふたりを傷つけるな!」


 ナノの訴えもむなしく、骨と骨がぶつかる音がした。人が傷つく音だった。静かな海岸に何度も響いて、その音に駆り立てられるようにナノは立ち上がろうとしたが、アヴァリーがナノの頭を足で押さえつけた。


「ふっ、おまえに関わらなきゃ、ふたりは傷つかずに済んだのに。ユーリといい揃いも揃ってばかだな」


 ナノはゆっくりとアヴァリーを見上げた。制御が効かなくなったみたいに全身が震えた。


「ユーリにも同じことを言ったのか……?」

「言ってやったさ。あの女も虫唾が走る、ばかな女だったが……ユーリもユーリだ。仕事ひとつできないくせにプライドばかり高いお荷物だったよ」


 アヴァリーはそう言ってナノの頭を足でぐりぐりと踏む。

 めくれた袖口からはユーリがくれたマーメイドが覗き、アヴァリーはそれを一瞥して、にやりとした。


 顔から足を退け、左腕をかかとで踏み潰した。マーメイドを狩るかのように何度も踏んで、踏んで、潰そうとした。

 ナノは無意識に声を上げる。ナノの叫びなど聞こえていないかのように、アヴァリーはナノの左腕をかかとで刺すように押し潰す。マーメイドが血に染まっていく。

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