第78話
レオは心を折るつもりもないし、敵を作るつもりもない。尊敬する家族のように自分のやるべきことに愚直に向き合えればそれでよかったので、仮面をかぶって、自分を守る術を身につけた。そうしていれば楽だった。
*
「……おまえ、風景画あんまし向いてなくね?」
冬の訪れを感じ始めたところだった。校内展覧会に出品する風景画を外で描いていたら、鼻をわずかに赤くしたユーリに話しかけられた。初めてのことだった。
「え? ぼく、風景画専攻なんだけど……」
「絵はうまい。だけどそんだけって感じ。なんでおまえ風景画なの?」
「うええ……なんでって……うーん……なんでと言われても。風景画は目の前にあるものに集中できるから、絵に全力で向き合える。だから選んだ」
「そういうもんか。どれ」
ユーリはレオの隣に腰を下ろし、自分のクロッキー帳を開いた。鞄から鉛筆を取り出して、レオが描いていた木をさらさらと描き始める。描かれる線にはいっさいの迷いがなかった。ユーリは無言でもくもくと描いていく。
レオは隣でユーリが絵を描くのをじっと観察していた。迷いのない線が、手の動きが、ユーリが見せようとする世界が、レオの心を高揚させる。そのいっぽうで自分の至らなさを思い知らされた。悔しくて、自然と口元が緩んでしまうほど。
「ユーリ、きみはすごい。紙の中の木がほんとに生きてるみたいだ! すごい! すっごいよ!」
「……ふはは、ガキかよ。すごいよ! ってなんだよ」
「すごいものはすごいんだ! ねえ、どうしてきみの絵は生きているんだろう。ぼくの絵よりも。ああ、ぼくはどうしてこんなに生きた絵を描けないの。ねえ、どうやったらいいの?」
レオの胸には泉のように疑問が湧き出た。胸の内に留めておけず、ただ生まれるままにユーリにぶつけた。ユーリは困惑しながらも、自身が描いた絵をレオに向けた。
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