第77話

 レオの実家は先祖代々王族御用達の衣料品店を営んでいる。質にこだわり、中途半端な仕事は絶対にやらない。ただ愚直に仕事をしてきたら、気づいたときには王族御用達になっていたというわけだ。


 レオは自分の家族が好きだった。理由は愚直だから。言葉は悪いけれど、仕事ばかだから。よりよい仕事をすることしか考えていないから。


 王族だろうが、市民だろうが、赤ちゃんだろうが、すべて等しく客でしかない。客に売るものについては手を抜かないだけ。と、実にわかりやすい家だったから、レオもすんなりと家族のことが理解できたし、レオ自身もそうありたかった。


 そんな環境で育ち、芸術関係の仕事を志すのはなんら不思議なことではなく、この学校へ入学した。


 入学して最初にかけられた言葉は「ブルースター衣料の息子さんだよね!?」だった。


 当時は洗濯したての真っ白な布みたいだったレオは自分の家、家族のことを知られていたのが、ただ嬉しかった。周りに人が集まって、すぐに友だちもできた。


 しかし、いつのまにか人に囲まれれば囲まれるほど、ひとりになってしまう感覚に陥ってしまった。


 だれひとりとして、レオの友だちになってくれる人はおらず、みんなブルースター家のご子息と友だちになりたいだけだと、気づいてしまった。

 ただ、レオはユーリと違い他人を門前払いするようなことはしない。そんなことをしては、敵を作るだけだ。敵はできるだけいないほうがいい。


 ハイスクールに入学したとき、ユーリの振る舞いをみて不器用だとすら思っていた。そのいっぽうで彼が芸術家として折れてしまわないか、というのも密かに心配していた。


 不器用な人間はこれまでにたくさんいて、そういう人たちのほとんどは心折れて去っていく。レオはミドルスクールの三年間でそんな背中を多く見てきた。

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