第79話
「俺はこの木がこんなに寒い中でも、寒さを感じさせずまっすぐに立ってるところを美しいと感じた」
「今日そんなに寒くなくない?」
「寒いだろ普通に。あーそれは置いといて。この木の一番美しいところを見せたい。そう考えながら描いた。ただ風景をあるがままになぞったって、まあ、それが美しいと思えることもあるけど、それなら絵に起こす意味がない。絵の奥には必ず描いたやつがいる。それを感じさせる。だからこそ、絵が生きる……いやめっちゃくせえな、俺。だけど間違ったこと言ってないと思う」
「そうか! つまりそれは……ぼくはぼくの世界をもっと描いてもいいってことなのかな」
レオは顔がぽっと熱くなるのを感じながら言った。ユーリのぽかんとした顔など気にする余裕もなかった。
「……変なやつ。でも、いいと思う」
「うん! ちゃんと描けたら見てね!」
いつも不機嫌そうにしているユーリが珍しく顔をくしゃりとさせる。ユーリはレオにとって特別な人物になった。
それからというもの、レオはユーリと過ごす時間が多くなった。ユーリがレオに取り入っただとか、レオがユーリに媚びているだとか、周りはいろんなことを言ったけれどレオはみじんも気にしない。
ユーリと過ごしながら、レオ自身の世界を構築するだけで一日が終わってしまうからだ。
いっぽう、ユーリはレオのことを気遣っていた。自分のようなやつと仲よくするメリットなんてない、とよくこぼしていた。
「いいんだ。ぼくはぼくの世界を生きるだけだから」
「……ああ、そう。なんつーか、レオは生粋の芸術家って感じ。うらやましい」
「ユーリは違うの?」
ユーリは返事に困っている様子だった。そして、たぶん違う、と小さな声で言った。
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