エピローグ

第172話

「へへっ、来ちゃった!」

「来ちゃったのじゃ!」


 夏もまっさかりの頃、レオとネモがヴェルデ村にやってきた。

 レオは大きな女優帽をかぶり、日傘を差している。この村で日傘など使う人間はいないので、目立っていた。対してネモは破れかけたサンダルに半袖につなぎと、この村になじんでいる。

 村の入口までふたりを迎えにいき、一度自宅へ案内した。


「あれ、イーズちゃんは?」

「イーズは養成校です。卒業が近いから忙しいみたいです」

「ほう。無事に卒業できるのかあいつは」


 ネモがお茶を飲みながらかっかっかと笑う。

 青の絵画を巡る旅を終えてから、三ヶ月が経った。

 ナノはステラと別れ、イーズとヴェルデ村に帰って、いつもどおりの生活に戻っていた。


 村に戻って数日後にはイーズは村を発ち、養成校へ戻った。数ヶ月ではあったけれど長く休学していたので、遅れを取り戻すために休暇返上で勉強と訓練に励んでいる。どうにか卒業できそうだ、という手紙がつい先日ナノの元へ届いたばかりだった。


 賑やかだった旅からひとりの生活に戻った直後は、虫の声や夜風の音が気になって眠れない日々が続いたけれど、ぽっかりと開いた穴が雨や風によって慣らされて埋まっていくように、ナノの生活も穏やかになっていった。


 時間が経ち、旅の中で味わった悲しさや悔しさ、楽しさ、喜び、すべてが地均しされていくようだった。それはいいことなのか、悪いことなのか。なにもなかったかのようになりそうな気もするし、ナノの胸の中で決して消えないものにもなりつつある。


 そんなところへ、ふたりがやってきた。


「暑い中お疲れ様でした。旅の道中ではお世話になりました」

「んもう、堅苦しい挨拶はいいのよ! 青の絵画のことは大変だったわね。ネモちゃんから聞いたわ」


 レオは眉尻を下げ、ナノとネモを労わるような目をした。

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