第173話

 あの海岸での出来事が頭の中によみがえる。あのときに負った傷も今はすっかり回復していたし、幸いタトゥーに傷痕も残らなかった。


 アヴァリーに青の絵画をすべて奪われ、ほどなくしてユーリ・シオンの遺作として大々的に発表された。専門家による検証もなされ、間違いなくユーリ・シオンによって描かれた絵だと証明された。


 検証結果が出た瞬間に多くのコレクターや芸術関係者、そして青の絵画という名前に惹かれた人々がこぞって買い手になろうとした。そのおかげで買値がどんどん上がり、最終買値がいくらになるのか──世間が注目していたところに、ゴシップ誌に青の絵画に関わる記事が掲載された。


「しっかし鋭い記者もいたもんじゃな。ワシ、ちょっと怖くなったわい」

「あれねえ。『いわくつきの青の絵画!』だなんておどろおどろしい見出しだったわよねえ。まあ、いわくつきと言えばいわくつきかもしれないけれど……」


 レオが一冊の雑誌をテーブルに置く。

 青の絵画が見つかって、一ヶ月経とうとしている頃のことだった。

 有名なゴシップ誌に、突然の遺作の発表を訝しむ記事が掲載された。


 どこに保管されていたのか、なぜ絵画はぼろぼろの状態だったのか、未発表のままユーリが亡くなったのはなぜか、絵が出るまでになぜこんなに時間がかかったか、など。青の絵画には不可解な多く、その説明がきちんとなされないのはやましい事情があるのでは──と。


 ルークが話していたまんまの内容に、ナノの背筋に冷たい汗が伝った。まさかルークが書かせたのだろうかとひやりとしたが、ルークがそんな危ない橋を渡るともナノには思えなかった。


 だれかがゴシップ誌にリークしたと考えるのが普通だろう。とはいえ、イーズは考えづらいし、ネモとレオも否定した。ステラが濃厚かとも思ったけれど、今の生活を危険にさらすような真似はしないだろう。

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