第174話

 遺作のお披露目は華々しく行われたのにこんな話題が出てしまい、未だ青の絵画には買い手がついていない。


「アヴァリーは大誤算じゃろうなあ。はっはっは、いい気味じゃ」

「とはいえ、皮肉よね。絵画自体を素晴らしいと思えば、そんなゴシップが出たって手元に置いておきたいものじゃないかしら。あんなに奪い合っていたのに、ゴシップひとつで敬遠される。絵画の付加価値だけしか見てないってことがはっきりしちゃったわね」


「はん。芸術のげの字もわからんやつらが売り買いしとった、というのが明らかになっただけじゃ。結局、自分がいいと思うものを通しきれない、弱っちい意思しかないんじゃよ。ユーリも浮かばれんの」


 ふたりの話を聞きながら、ナノは首を傾げる。芸術の話は相変わらずさっぱりだ。


 たとえば、青の絵画を手にするために人を殺そうとしていた、という事実を知って心穏やかにいられる人はいないだろう。敬遠する人の気持ちもわからなくないが、ネモとレオが言うことも一理ある。絵画自体はなにひとつ悪くないのに、悪いのは勝手な価値を加えた人間なのに。


「なんだか、ユーリに試されてるような気もしてきたわ。ユーリ・シオンの名も、青の絵画というブランドも、絵画の不可解な点も、関係ないと言いきれる、絵に対して純粋に向き合う人を見定めているんだわ」

「あの性悪がやりそうなことじゃのう! 今頃天国で腹を抱えながらこの状況を見ておるんじゃろ。あいつの顔を思い出したら腹が立ってきたわい!」


 そう言ってネモは勢いよくお茶を飲み干した。ナノはそのカップにおかわりのお茶を注ぐ。


「ま、まあ……人の感情は揺れ動くものですから。もしかすると、たくさん迷って、絵画の魅力が忘れられなくてやっぱり欲しいって思う人が出てくるかもしれませんし。わたしの気持ちとしては、売れないでほしい気もしますけど」

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