第175話
「ふん、人が揺れ動くのを、にやにやしながら見るような男じゃぞ、ユーリは」
ネモの言葉にレオが頷く。にやにや顔のユーリを思い出すと、ネモの言葉も否定できないような気がしてきた。
ナノはふたりをユーリの墓へ案内した。昨日までの数日間、大雨が続いていたから墓石が汚れているだろう。きれいに掃除をしなければ、と考えながら墓地へ向かった。
大きな白い花を抱えて墓地へ向かうと、墓地らしからぬ楽しそうな声が聞こえた。三人は顔を見合わせてから、急足でユーリの墓前へ向かう。そこには見知った顔があった。
「……イーズ! ステラも! どうして!」
「わっ、ナノ!」
「ありゃ。サプライズ失敗じゃねえか。やっぱ先にナノの家に行きゃよかったな」
ナノは思わずふたりに飛びついた。ふたりは一瞬よろめきながらも、しっかりとナノを抱き留めた。
「卒業の目処がついたから、ちょっとだけ帰れることになって。ナノをびっくりさせようと思って、ステラと待ち合わせたんだ」
「で、ルークさんからユーリの墓参りを頼まれてたから、先にこっちに来たんだ。まさかナノが……しかもレオさんとネモさんまでいるなんて、こっちがサプライズだわ」
墓石の前には色とりどりの花が置かれていた。その横にレオが白い花を手向けると、黒い墓石の前が華やかになった。
「墓参りじゃというのに、なんだか賑やかじゃのう。どれ」
ネモが鞄からボトルワインを取り出して、墓石の前に注いだ。地面にワインが勢いよく吸い込まれていき、いい飲みっぷりだとネモがけらけら笑う。残りはネモが飲み干していた。
「ふふ、なんだか宴会会場みたいになっちゃったね」
「ユーリにはこういう感じのほうがいいのよ」
ナノは墓石の前にしゃがみ、土埃がうっすらとかぶった墓石をクロスで拭く。墓石は太陽の光を吸い込んで熱を帯びていた。
今年もとても暑い。太陽が首の後ろをじりじりと照りつけたが、イーズとステラ、レオとネモがナノを囲むように覗き込んでいて、陰になっているおかげかほんの少し涼しく思えた。
「ユーリ、今年は少し涼しいぞ」
墓石の表面を左手で撫でると、ナノの言葉に返事をするようにぴゅうと突風が吹いた。
〜了〜
ナノと青の絵画をめぐる旅 来宮ハル @kinomi_haru
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