第119話

 ステラ自身も当初ナノたちから得た情報をもとに、青の絵画を横取りしてアヴァリーに渡すはずだった。現に今、ステラがその計画を狂わせている。その結果ステラは命を狙われ、イーズが身代わりになった。


 ゾロが足を組み替え、二本目の煙草を取り出す。ライターのオイルが少ないのか、うまく火がつかない。ステラが鞄からマッチを取り出して擦ると、ゾロの煙草に火をつけた。


「そうだ……ユーリの娘……ナノっつったか。あいつの母親が亡くなってるのは知ってるな?」

「はい。だからユーリが引き取って育ててた……それがなにか?」

「あいつの母親、火事で亡くなってんだ」


 ナノの左腕を思い出す。

 ナノは火事に遭ったことすらあまり覚えていないようだったが、身体には火傷痕がしっかりと残っていた。

 こんな話をしてくるということは。ステラの手のひらが一気に湿る。


 ──まさか。


「それ……アヴァリーが……?」


 ゾロが煙草をくわえたまま頷く。ステラは身体中の血液が凍るように感じられた。


「なんで、そんなこと」

「ユーリの絵を売るのに、邪魔だった」


 ユーリが青の絵画を描き始めた頃には、ナノの母親はまだ生きていた。つい先日レオから青の絵画を描くに至った話まで聞いたところだ。

 そのときですら、アヴァリーは青の絵画を半ば勝手に売り払っていたのだから、わざわざナノの母親を殺す意味などない。


「絵を売るのにナノの母親は関係なくないすか。生きてる頃から絵を売って儲けてんのに。ナノの母親って、そんなに影響力あるんすか」

「影響力なんてねえよ。たかが移動パン屋の店員なんだ。ただ、ユーリと結婚目前だったらしい。だからユーリは家族のために絵を描こうとして、ユーリ個人のつてでアヴァリーを介さない販売経路を準備してたんだ。アヴァリーはユーリの絵を自分の思うままに売れなくなってたってわけ」


 ステラの背中に冷たい汗が伝う。

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