第118話

 ゾロはステラのお腹のあたりを指でとんとんと叩き、最後に軽く押し込んだ。


「……まさか、イーズを刺したのは……」

「アヴァリーが俺たちのかわりに新しく雇ったやつだ。まあ、本当はおまえをやりたかったみてえだけどな。どうやら、本気でおまえが青の絵画を横取りするもんだと、不安で仕方ないらしいぜ」


 青の絵画に高額な価値がつけられていることは、ステラも重々承知している。それでも怒りを通り越して、恐怖すら覚える。

 依頼料に加えて、青の絵画を売却した分け前をもらうという契約で、ゾロはこの仕事を受けた。


 現存するかどうかもわからない絵を探すところから始まり、今は現存する可能性が高いところまではわかった。ネモに会えば、隠し場所のヒントを得られるかもしれない。


 ステラはまだネモのことをアヴァリーに伝えていなかった。アヴァリーではなく、ナノに青の絵画を手にして欲しくなって、伝えるのを迷っていたからだ。


 そういうわけで、報告の手紙には当たり障りのないことしか書けなかった。ステラのこめかみに冷たい汗がにじむ。


「……ま、俺もあいつと手を切りたかったからちょうどよかった」

「え?」

「この仕事の裏で、アヴァリーについて調べてたんだ。ちゃんと対価を支払えるやつなのか、疑わしくなってな」

「疑わしい?」

「あいつの青の絵画への執着、すげえだろ。かなり急かしてくる。こりゃ急いで金が欲しいんじゃないか、なにか金の問題を抱えてんじゃねえかと思って」


 ゾロは煙草に火をつける。薄暗い部屋にぽっと灯る火は蛍が飛んでいるようだった。


「幸い、特にそんな事情はなかった。金がただ欲しいだけだった」

「……はあ。それで人殺そうとするんすか」

「金っていう安心を前にしたら、俺たちの命なんざ虫殺すみてえなもんだ」


 ゾロが口端を片方だけ上げる。


「その虫に計画狂わされて、頭きてんだよ」

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