第117話


 ナノと夕飯を食べて宿に戻り、ステラは窓からぼんやりと夜空を見上げていた。暗い中に金貨をばらまいたような空だった。

 すっと手を伸ばしてみると、もちろん届きはしないが、なんだか掴めそうな気もする。


 空にかざした手をぼんやりと眺めながら、先ほどナノと手を繋いだのを思い出していた。

 どうしてナノの手はあんなに温かいのだろう。厚い氷が溶けていくような心地だった。そんなことを考えながらまだ手に残る温もりを確かめていた。


 手を伸ばしたまま大きく息を吸うと、澄んだ空気が肺を満たした。ゆっくりと吐き出したと同時に、ステラの顔のすれすれを矢が飛ぶ。とっさに手で捕まえると、矢の先には手紙がついていた。小さく舌打ちをして手紙を開く。


 窓から身を乗り出してあたりを見渡す。宿の真正面の屋根の上に、ゾロが立っていた。弓を持ってにんまりとしている。


 ステラは窓を全開にした。ゾロは屋根伝いに飛び移り、ステラの部屋に入るなり、「ちょっと一杯付き合え」と言う。手にはワインのボトルを持っていたので、ステラは自分のカップだけを手にする。


 ゾロはカップの三分の二くらいまでワインを注ぎ、あとはボトルから直接飲む。


「相変わらず弓のコントロールいいっすね」

「これくらいしか特技がないもんで」

「……で、なんの用すか。お説教とか?」

「お説教のほうがマシかもな」

「………………?」


 ゾロはベッドにどかっと腰掛ける。


「残念なお知らせだ。ステラ、俺たちはクビになった」


 残念なお知らせ、と言うわりにゾロはあっけらかんとしている。違和感を覚えながらステラは話の続きを促した。


「おまえがなかなか情報を持ってこないから、アヴァリーはしびれを切らしたみたいだぜ」

「すんません……」

「本当だぜ、まったく。そういうわけで今回の件は手を引く。これ以上関わると、ちょっとやばそうだからな」

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