第117話
*
ナノと夕飯を食べて宿に戻り、ステラは窓からぼんやりと夜空を見上げていた。暗い中に金貨をばらまいたような空だった。
すっと手を伸ばしてみると、もちろん届きはしないが、なんだか掴めそうな気もする。
空にかざした手をぼんやりと眺めながら、先ほどナノと手を繋いだのを思い出していた。
どうしてナノの手はあんなに温かいのだろう。厚い氷が溶けていくような心地だった。そんなことを考えながらまだ手に残る温もりを確かめていた。
手を伸ばしたまま大きく息を吸うと、澄んだ空気が肺を満たした。ゆっくりと吐き出したと同時に、ステラの顔のすれすれを矢が飛ぶ。とっさに手で捕まえると、矢の先には手紙がついていた。小さく舌打ちをして手紙を開く。
窓から身を乗り出してあたりを見渡す。宿の真正面の屋根の上に、ゾロが立っていた。弓を持ってにんまりとしている。
ステラは窓を全開にした。ゾロは屋根伝いに飛び移り、ステラの部屋に入るなり、「ちょっと一杯付き合え」と言う。手にはワインのボトルを持っていたので、ステラは自分のカップだけを手にする。
ゾロはカップの三分の二くらいまでワインを注ぎ、あとはボトルから直接飲む。
「相変わらず弓のコントロールいいっすね」
「これくらいしか特技がないもんで」
「……で、なんの用すか。お説教とか?」
「お説教のほうがマシかもな」
「………………?」
ゾロはベッドにどかっと腰掛ける。
「残念なお知らせだ。ステラ、俺たちはクビになった」
残念なお知らせ、と言うわりにゾロはあっけらかんとしている。違和感を覚えながらステラは話の続きを促した。
「おまえがなかなか情報を持ってこないから、アヴァリーはしびれを切らしたみたいだぜ」
「すんません……」
「本当だぜ、まったく。そういうわけで今回の件は手を引く。これ以上関わると、ちょっとやばそうだからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます