第7話

「ナノさん、本日二回目の墓参りになっちゃいましたね。ごめんなさい」

「いいえ。ルークさんたちが来てくれて、ユーリも喜ぶと思います」


 外はまだ雪が降っていた。雪除けの帽子をルークにかぶせ、車椅子はジャックが押す。地面と車輪がこすれ、砂利を跳ね上げる音が三人のあいだに静かに響いていた。


「ユーリは特に青が好きだとか、言っていた覚えがなかったんですけど……青、好きだったんですね。青一色の絵を描くなんて」

「そうなんですよね。僕も兄さんが青が好きだなんて知らなかったんです。ある日突然、取り憑かれたように青色だけで絵を描き始めたんです。あれ、どうしてだったんだろう」


 ユーリの墓前で、ルークははあ、と白い息を吐いた。たくさん知りたいことがあったのになあ、と言葉を添えて。


 ユーリが生きていたら、いろんな疑問をぶつけて困らせてしまいたい。きっとしどろもどろになって、途中で拗ねながら適当に教えてくれるのだろう。ナノの中に生きるユーリはそんな男だ。


「ルーク様、そろそろ帰りましょう。迎えの車の時間です。この寒さはお身体にも障りますし」


 ジャックが重々しく口を開く。ええぇ、と子どものような声を出してから、ルークはしぶしぶジャックに従った。その様がユーリとよく似ていて、ナノは思わず笑ってしまった。


「進展があったら報告します」

「ありがとう。ちょっと生きる張り合いができそう。あ、ナノさん、ひとつ約束してほしい。どうか無理はしないでください。じゃないと、僕が兄さんに怒られちゃうから」


 ルークとジャックは車の椅子に腰掛ける。蒸気自動車の音がブンと鳴り響き、泥を跳ねながら走っていく。車が見えなくなるまでナノは手を振っていた。


「さて、善は急げだな」


 ナノは自宅へ向かって小走りする。家までの坂を登ろうとしていたときだった。

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