第6話
青の絵画が見つかるどころか、絵が現存している保証もない。しかし、探す価値はあると根拠のない自信のようなものがナノの腹の中でぐるぐると渦巻いている。
「それに、ルークさんにも見てほしい」
ルークは無言で頭を下げる。なかなか頭を上げようとしないので、ナノはそっと立ち上がったが声をかけずにおいた。ルークを包む毛布にはいくつもの涙のしみが落ちていた。
ルークにはユーリが残したスケッチブックを数冊渡した。
「よかったらどうぞ。青の絵画ほどの高値ではないかもしれないけれど」
「そんなあ。……あ、これ昔のナノさんですね」
セーターを着て鼻を真っ赤にしている幼いナノが描かれていた。今よりもだいぶ幼い自分の絵を見られるのはいささか恥ずかしかったが、ルークが楽しそうなので、気にしないよう努めた。
「ふふ、かわいいね」
不意に笑顔を向けられ、ナノはどぎまぎした。笑うとさらにユーリと似ていると思った。
そんなナノを気にする様子もなく、ルークは次々にスケッチブックのページをめくる。
「あっはは、この悪意のある似顔絵。こういうの昔から描いてたんですよね、兄さん」
ルークが指をさした絵は、ナノが通っていた学校の教師の似顔絵だった。
やたらとナノとユーリを目の敵にしていた、思い出すだけでも憎たらしい教師だ。顔が馬に似て、目と目が離れていた男だった。彼の特徴を大げさに描き表した、実に悪意のある似顔絵だった。
「ユーリは昔からこんな絵を?」
「ええ。身体が弱くてほとんど外に出られない僕に、外のことを説明するために、兄さんは毎日たくさんの絵を描いて見せてくれたんです。学校のいけすかない先生の絵とかもあって、よく笑いながら話していました」
懐かしむようなルークの眼差しに、ナノの心も温かくなる。
ルークの希望でユーリの墓参りに行くことになった。
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