第5話

「それはない。こう言うと気を悪くされるかもしれないけれど、農場で働くよりも画家でいたほうが余裕のある暮らしはできると思う。経済的にも、時間的にも」


 ルークはまっすぐにナノを見てから、柔らかく微笑む。ナノを気遣うというよりは、単に事実を述べているように見受けられた。


「『青の絵画』を一枚売れば、しばらく余裕で遊んで暮らせると思います」

「青の絵画?」

「兄さんの代表作です。シリーズものというか。兄さんが二十歳くらいからずっと描き続けてきた絵で、かつて高値で取引されていたんですよ。名前のとおり、青色だけで描かれた……抽象絵画っていうのかな。アートというか。それはもう、素晴らしい絵だった」

「見てみたいです。ユーリが描いたものなら」


 ナノはやや前のめりになるが、それに反してルークは気まずそうな顔をしている。眉間にしわを寄せて、一度執事のジャックをちらりと見た。もごもごと口を動かすも、なかなか言葉は出ない。ジャックが無言で肩を撫でると、なにかを決心したように顔を上げた。


「うん……青の絵画はいくつか兄さんが持ち出したはずなんですが、ナノさんの反応から察するに、この家にはなさそうですし……となると、行方不明なんですよね。僕も最後に見たかったんですけど……」


 ルークは申し訳なさそうに顔を伏せた。ルークはなにも悪くない。むしろ弱りきった身体でこんな辺境までやってきておいて、目的がなにひとつ達成されないのはあまりに気の毒に思えた。


「あの、もしよければ……わたしに絵を探させてもらえませんか。自信はありませんが……ユーリの友人に、ひとり当てがあるので。なにかヒントが得られるかもしれない」

「え?」

「わたしもユーリの昔の絵を見てみたい」


 その絵を見てナノが知らないユーリを少しでも知れるのではないかと期待していた。

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