第8話
「ナノ!」
名前を呼ばれて振り返ると、大柄な青年が跳ねるようにこちらへ近づいてくる。その様は人懐っこい大型犬のようだった。
彼は薄手のケープコートを羽織り、その下にはアイロンのかかった白シャツを着ているだけだった。雪がちらつくほどなのに、寒くないのだろうかと思う。
──ユーリなら絶対に耐えられないな。
「帰ってきていたのか、イーズ」
「うん。今着いたところ」
イーズの人のよさそうな笑顔に、ふっと身体の力が抜けていく。ナノはそれなりに緊張していたらしかった。
「寒い……ユーリは、震えそうな天気だね」
イーズは空を見上げる。それから、赤くなった鼻を一度だけすんと鳴らした。
イーズ・カランコエ。
彼はユーリが働いていた農場の息子で、八人兄弟の長子だ。そしてナノにとって数少ない友人のひとりでもある。
「イーズ、帰ってくるたびにでかくなっている気がする」
「そう? 身長はそんなに伸びてないけれど……訓練してるとご飯もいっぱい食べるし、筋肉もつくからかなあ」
イーズはミドルスクールを卒業して、軍隊や警察隊の隊員を養成する学校に入学した。
昔から身体は大きかったし運動神経もよかったけれど、争いを好まず穏やかなイーズが養成校を志望したのは、ナノとって意外だった。
後々イーズの両親が話していたが、イーズは養成校からスカウトを受けたらしい。学費も免除になるうえ、危険が伴う仕事ではあるけれど将来は安泰。なるほど、とナノは思った。
養成校の訓練は大変だと聞く。完全全寮制で、自宅に戻れるのはたまの休日だけ。教師は怖いし、先輩たちも厳しいのだとか。三日で退学する生徒もいるらしいと話もあるものの、なんだかんだイーズは音をあげることもなく、次の夏には卒業を迎えようとしていた。
八の字眉毛と、目尻が下がった目。鋭さとは対極にあるような容貌からは、軍隊にいる姿がまったく想像がつかない。
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