第9話

 ふいにイーズはナノの頭に手を乗せる。壊れ物を扱うような触れ方に、イーズが変わらないことを改めて実感する。


「……僕が大きくなったんじゃなくてナノのほうが縮んでいるのかもよ?」

「そ、それは困る……」


 手を乗せられるとさらに背が縮んでしまう気がした。ただでさえ小さいのに、これ以上縮んではいつか消えてしまう。

 消えてしまうは大げさかもしれないけれど、本当に消えてしまいそうだと思っている。

 ごめんごめん、とイーズが笑った。


「……ただいま、ナノ」

「おかえり。早くおばさんたちにも顔を見せてやるといい。イーズの帰りを楽しみにしてるから」

「うーん、帰ったら帰ったで農場を手伝わされるだけだよ。僕、休暇で帰ってきたのに」


 イーズは人差し指で頬をぽりぽりとかく。

 昔からイーズは実家の農場をよく手伝っている。ご両親にとっても自慢できるところしかない息子だし、近所の人たちからは息子にしたい子ナンバーワンの称号を得ている。


 ユーリだけは、イーズのことを危なっかしい子といた。その意味は結局わからずにいたが、イーズが養成校のスカウトを受けたことを知ってから、なんとなく察した。


 とはいえ、幼い頃からナノの面倒を見てくれるイーズに対し、そんな心配をするのはなんとなく悪い気がする。自分がもう少ししっかり者だったなら、イーズを堂々と気遣えるのに。


 ぴゅうと冷たい突風が顔に当たり、頬に刺すような痛みが走る。おまけに大きなくしゃみまでしてしまった。

 あまりの豪快な音にイーズが目をぱちくりとしている。


「引き留めてごめん。寒いよね。また後でゆっくり話そう」

「うん……そうだ、相談したいこともあるんだ。時間があるときにでもいいから、お茶でも」

「相談? 珍しいね。頼ってもらえるのは嬉しい。なんなら今からでもいいけど」

「ううん。家族のほうが先だ」


 渋るイーズの背中を押し、帰宅をうながす。

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