第18話
結局、ナノは炎の激辛ハバネロ具沢山スープの誘惑に負けた。店員がにやけながらナノの前に置くと、砂時計をテーブルの上に置く。
スタートの掛け声でナノはスープを口に含む。ひとさじだけで身体の芯から温まり、額からは汗がぷつぷつとにじむ。
「うんまい! ああ、今日の疲れが一気に吹っ飛ぶ」
食べる手が止まらないナノを店員を含めた周囲が物珍しそうに眺めている。ナノを前にしながらイーズは鶏肉のソテーと大盛のライスをのんびりと食べていた。
「……ごちそうさま! こんなに美味しいスープは初めてだった」
「お嬢ちゃん、やるねえ!」
制限時間などものともせずたいらげた。完食のあかつきには、食事代無料に加え、おまけのシャーベットがつく。辛味が消えるという理由で、ナノはシャーベットをイーズに譲った。
「いやあ、お姉ちゃん、いい食いっぷりだねえ」
ナノは前髪を額に張りつけたまま顔を上げる。
テーブルのそばにはいつのまにかひとりの獣人が立っていた。黒く尖った耳と細いしっぽを持つ、猫の獣人だった。
目尻が上がり、意志の強そうな目をしていた。金色の瞳は褐色の肌によく映え、ナノは思わず見惚れた。
彼は手に持っていたグラスをナノのグラスにかちんとぶつける。グラスの音でナノははっと我に返った。
「お姉ちゃんとの出会いに感謝。一緒に飲もうぜ」
「はあ……」
「ノリ悪いなあ。ここは旅人たちの交流の場だぜ。楽しく飲もうや。なあ、そっちのお兄ちゃんも」
イーズは怪訝な顔をしながらも、彼に圧されるようにグラスを持ち上げた。
近くの椅子を寄せて獣人はどかりと座る。
「おれ、ステラっていうんだ。金集めと探しもののために旅をしてる」
ステラと名乗った獣人はひとつにくくった長い髪を、胸の前で指先に巻きつけながら話す。
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