第51話
イーズはなにを食べるだろうと考えていたら、いつものシャツに着替えたイーズがやってきて、ナノの前に座る。
まだ暑いらしくシャツを肘までまくり、胸元のボタンをふたつ開けていた。なんだか目のやり場に困って、ナノはメニューで顔を覆った。
「お腹空いたなあ。なに食べよっかな、メニューを見せて。ナノはなにを食べるの?」
「う、うん……わたしは激辛タコスに決めてるんだ。イーズはたくさん力仕事をしたから、スタミナのつくものを食べるといい」
イーズはうきうきしながらメニューを眺めている。この顔は昔から変わらなかった。
ステラに注文内容を伝えると、ステラはいいなあ、とつぶやいてからさっさとキッチンへ向かう。
この店は夕方から開店する。今日は開店時点から客足が途絶えないらしくステラはずっと接客しっぱなしなのだとイーズが教えてくれた。
「ステラは働き者だな」
「お金が欲しいだけだよ……でもまあ、たしかに嫌な顔せずに働いてる。仕事もてきぱきしているし、店長も褒めてた」
「どうしてそんなにお金が欲しいんだろう。昼間もそんな話をしてたんだが、結局聞けなかった」
「お金を欲しがらない人のほうが珍しいと思うけど」
ステラも似たようなことを言っていた。
言わんとしていることは理解できても、ナノは納得できなかった。お金があって生活が豊かになるのはいいことだけれど、お金をただ持つことだけに執着するのは、ナノには理解しがたかった。
その執着は人の心をも食うときがある。
ナノの脳裏にふっとアヴァリーの顔が浮かんだ。
青の絵画の金銭的な価値ばかりを話すだけで、絵に対する気持ちが感じられなかった。きっと彼はその絵をユーリではないほかのだれかが描いていても、きっと同じように話すのだろう。絵にかかるお金のことにしか興味がないから。
「お金はいいものだけど、すべではないのにな」
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