第150話

 イーズは一瞬緊張した面持ちになったけれど、すぐに表情を崩した。優しい眼差しの中にはある種の覚悟のようなものが光っている。


「うん、少しだけ待ってて」

「うん、待つ」

「ありがとう。とりあえず今は青の絵画を見ることだけを考えよう。ユーリが描いた絵だもの、きっと僕は好きだと思うから」

「……イーズは本当にユーリが大好きなんだな」


 イーズの目がまん丸になり、わずかに肩も跳ねた。えぇ、とか、うーん、と言いながら口元に手を当てていた。


「昔から思っていたけれど、イーズはユーリが大好きだよなあって」

「……うん、まあ、好きだよ。ユーリがいなかったら、今の僕はいないと思うし。でも改めて言われると、なんだか照れるな」


「照れた? 照れたのか? ふふふふ」

「……なんだよ、その反応。ネモさんの影響を強く受けてるんじゃない? もう、ほら。出かける準備!」


 イーズは勢いよく立ち上がって部屋を出ようとする。待って、と追いかけようとするとナノの声に反応してイーズは立ち止まり、振り返る。ナノはイーズの隣に並びリビングへ向かった。



 ネモに連れられて街のはずれまでやってくる。昼間は人の声や鳥の声なんかがしていた街も、夜中は波の音しか聞こえない。海鳴りだ、とネモがにやりとする。


 ネモは足をけがをしているので、イーズが背負っていた。快適じゃあ、と言いながら夜には似合わない声で笑った。


 海岸へ到着すると、ちょうど干潮の時間だった。本来ならば海水がある部分は、夜でもわかるほどの白い砂浜になっている。潮が引いているうちにこの砂浜を進み、小島へ渡る。


 通常ならば船で渡るけれど数日に一便程度しか出ていないらしい。

 ネモが青の絵画の隠し場所に他人を入れたくないのもあって、船を使わず、しかもわざわざ夜中を選んだ。レオからアヴァリーの話を聞いていたようで、ネモなりに警戒していたようだ。

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