第44話
「なにしてるの?」
「頭を撫でると元気が出るものなのかと。ユーリもよくやってくれたし、ステラも一気に元気が戻った」
「そうだねえ……」
イーズはおもむろにナノの頭を撫でた。いつもと変わらない、柔らかい手つきだった。もっと力を抜いてどかっと手を置いてもナノは平気なのに、イーズはひよこを包むかのように頭を撫でる。
思えば、イーズが乱暴な手つきでナノに触れたことは昔から一度たりともなかった。何年経っても変わらないイーズに安心するいっぽうで、イーズはいまだに泣き虫ちびのナノだと思っているのかもしれない気もしている。
複雑な気分で頭を撫でられているナノに対し、イーズはわずかに不安をにじませる。
「……あれ、嫌だった?」
「嫌じゃない。だけど……なんだか複雑なんだ」
そっか、とイーズは静かに笑い、なにごともなかったかのように案内板を目指して歩きだす。ナノが後ろから小走りでついていくと一度足を止めてスピードを緩めた。
案内板の前ではちょっとした人だかりができていて、ざわざわしている。イーズが人の頭を避けながら案内板をじっと見て、えっ、と小さく声を漏らした。
「どうしたイーズ?」
「わあ……ちょっと計画が狂いそう……船の不備が見つかって、修理に時間がかかるみたい。しばらくは欠航なんだって」
「欠航⁉︎」
ナノの声に、近くに立っていた中年の男性が困ったように笑いながら「そんなに利用者もいないから、のんびりやるんだよ」と言った。
ここで足止めを食らうとは想定外だった。レオに会って、ユーリと青の絵画の話を聞けると思っていたのに……ナノはがっくりとうなだれた。
それ以上に難しい顔をしていたのはイーズのほうだった。
「まずいなあ……僕たちの宿代、足りないかも……」
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