第111話
本当は話をするのもつらいだろうに。イーズは小さくなった背中を撫でた。こんな状態でもユーリは笑おうとしていて、それが腹立たしくも悲しくも、イーズが好きなユーリでもあった。
なぜナノがユーリの胸の中で泣かないのか。
ユーリは一生わからなくてもいい。ナノもおそらく望んでいない。だけど。
「ユーリがナノの胸で泣かないから、ナノも泣かないんだと思う」
ユーリは考えるような仕草をして、目を伏せる。口元だけはどうにか笑おうとしていた。
「……はは、じゃあもうナノは俺の前では泣いてくんねえのか。イーズも泣かなくなっちゃったし、さびしいな。おいイーズ、今ちょっと泣け」
「そんな急に言われても」
「さびしいんだよ」
──そんなの……。
イーズはユーリの太ももあたりに頭を乗せた。ユーリの手がイーズの頭を弱々しく撫でる。ユーリの手は冷たく震え、イーズの記憶の中とは違うものだった。
泣くつもりなんてなかったのに、イーズは昔のように泣きじゃくってしまった。やっぱり、なにが原因で泣いているのかわからなかった。
ユーリの葬儀を終え、諸々の手続きを終えたナノはすっかり憔悴しきっていると思いきや、これまでとあまり変わらないように見えた。
というより、そう見せているといったほうが正しい。
ユーリが亡くなる直前の話をナノから聞いた。
今年は猛暑だというのに、寒い寒いと言っていたそうだ。ナノをべつの人の名前で呼ぶこともあったと、ナノは苦笑していた。
「イーズのことも心配してた。あいつは危なっかしいからって。それで、『危ないのは俺のほうか』と笑うまでがセットだったんだ。ユーリのボケは最後までおもしろくなかった」
「ユーリは僕のことを危なっかしいって思ってたんだ」
「うん。だけどいつも褒めてたよ。生まれ変わるならイーズみたいな頑張り屋さんがいいなって言ってた」
「ユーリがそんなことを?」
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