5 ステラの夢

第57話

「船の出航の目処が立ったらしいよ」


 ステラが宿の自室で寝ていると、イーズがそう言いにきた。ふうん、と返すと、室内の雰囲気が途端に変わったのを感じた。


「あんまり乗り気じゃない? ナノは飛び跳ねて喜んでたけど」

「そりゃ旅が再開できるのは嬉しいけど、今おれ寝起きだよ。昨日夜遅かったんだよ、イーズも知ってるだろ」


 ベッドから出て、まず水を飲む。そばに脱ぎ捨てたズボンを履いて、のそのそとイーズに近寄った。猫背で歩くステラに対し、イーズは呆れた眼差しを向けていた。


 あんまり乗り気じゃないかと尋ねられて目が覚めてしまった。意識はしっかりしているし、心臓もいやに高鳴っているけれど、ステラはどうにか眠いふりをする。


 先日、ナノにも似たようなことを言われたのを思い出していた。イーズのように訝しむ様子はいっさいなかったが。


 絵画を見つければ、ナノとイーズとの旅が終わる。そうなればふたりと一緒にいる理由などなくなる。そう考えると、ほんの少し息がしづらくなった。

 ナノやイーズといると、まるで自分が自分でなくなるような、知らない自分がいるような不思議な感覚に陥る。


 ──それに……。


 ステラは小さく溜息をついた。


「……この前ナノとも似たような話をした。絵を見つけたいのは変わんねえし、おれはナノの力になりたい。ただ、絵を見つけたら旅は終わる。そう思うと手放しで喜べないところもある」

「旅はいつか終わらせるものだよ。気持ちはわからなくはないけど」


 イーズは曇りのない眼で言い切る。

 こんな目をされたら、認めるしかない。善意にしろ悪意にしろ、まっすぐに向けられた意思にはとうてい勝てない。


「……おっしゃるとおりだわ。とにかく、船のことは了解。ようやくレオに会えるんだな。青の絵画の話が聞けりゃいいけどな」

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