第107話
「まだ決まったわけじゃないけれど……でもいい。それに軍人なんかタトゥー入れてる人は珍しくないよ。死体になっても判別しやすいように入れたりするんだってさ。訓練生から入れる人はあんまりいないかもだけど」
「大胆だなあ……そんな面があったとはね。いいけど、親御さんには了承得てこいよ」
「……べつにいいと思う。たぶん気づかないよ」
こんな発言が出るとは、イーズは自分で自分に驚いた。
それでもイーズは引く気などいっさいない。
鼓動がだんだんと大きく聞こえて、冷たかった指先は痛みと近い熱を帯びていた。
「ナノは僕を一番強い人だって言ってくれたんだ」
ユーリはなにも言わずにイーズを見つめる。その視線に押し負けそうだったが、イーズはぐっと足に力を込める。
「だから、その気持ちを裏切りたくない。僕を奮い立たせてくれるような絵を、ちょうだい」
「……わかった。気合いの入ったやつ、描いてやる。レオ、おまえいつまでいる?」
黙っていたレオが静かに笑った。一週間くらいかな、とレオが言うなり、ユーリは頭を抱えた。
「もうちょい無理? 締切やばすぎなんだけど」
「ふふ、締切さえも楽しむのがユーリ・シオンではなくて?」
ユーリは頭をがしがし掻きながら、奥の部屋に入っていく。さっそくイーズのタトゥーのデザインに取りかかったようだった。
残されたレオがイーズにむかってにこりとする。サイドに垂れた金色の前髪に窓からの光が当たってきらきらしていた。
「急にごめんなさい。レオさん」
「いいのよ。なんだか情熱的ねえ。アタシも全身全霊でいいものを彫るから。それにしても、どうして急に?」
「……僕は強くないから、なにか形に残さないと気持ちが揺らいじゃうんです。僕はナノにとって一番強い人であろうと思ってるから」
「それは……ナノちゃんの一番になりたいってこと?」
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