第95話

 続けて船に乗れるか不安なところだったが、ステラは青い顔のまま「乗れる」と言った。


「無理はするな。少し休んでも……」

「休もうがどうしようが、船に乗りゃどうせ気分悪くなるんだもん。それに出航は夜だろ。まだ今は昼間だし、時間あるから平気。ちょっと散歩して空気吸えば大丈夫」


「でも……」

「あーもー。ナノはさ、ちょっと強引にいったほうがいい。欲しいもん手に入れるって、そんなもんだぜ」


 ステラはナノの頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃと撫で回した。まだ顔色もすぐれないにも関わらず、ステラはにっと白い歯を見せる。


「おれのことはしゃべる荷物くらいに思ってろって」

「荷物だなんて思わない。ステラはもう大切な仲間だからな」


 ふうん、とステラはナノから顔を背けながら言う。黒いしっぽが左右にゆらゆらと揺れていた。

 ふたりの少し後ろをイーズがついてくる。なにも話さずにぼんやりとしたままで、ナノが声をかけるといつもの穏やかな笑みを見せた。


 イーズも疲れているのかもしれない。いつも訓練で鍛えられているからといって、長旅の疲労に耐えられるかといえばそうとも限らない。


「イーズ」


 ナノはイーズの手を握った。


「……ん? なあに?」

「今のイーズははぐれてしまいそう」

「子どもじゃないんだから、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけ。僕も少し船酔いしたのかも」


 イーズは手を離そうとしたけれど、ナノは固く掴んだままだった。イーズは戸惑いながらも、諦めてナノの後ろをついてくる。

 隣にいたステラがナノの右手をそっと掴んだ。


「ふたりばっかずりい」

「……子どもみたいだな。まあ、いいか。しっかり繋いでおくんだぞ、ステラ」

「はーい」


 イーズとステラに挟まれるような形でナノは道を進む。ふたりの手は温かくて、厚い。この手と進むならば、どこへでも行けそうな気がしていた。

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