第94話

 出航してしばらくしてから、ステラの顔が青くなってきた。長椅子に寝転がって唸り始めたと思ったら、口元を押さえながら船内に駆け込んでしまった。

 ステラの背中を見送りながら、ナノとイーズは互いを見合う。


「ええっと……これからのことだけど……」

「あ、うん。まずは港町に戻り、そこから北のほうへ向かう。また船旅になりそうだな……ステラには気の毒だが……」


「こればっかりは仕方ないよ。船を降りたら、しばらくは歩きだから。次で青の絵画を見つけられたら、もう船に乗らずにルークさんがいる町を目指せるね」

「うん。まあ、ネモさんのところで青の絵画と出会えたらいいんだが……ステラにも原画を見せてやりたい」


 ステラの旅の目的は、複製しか知らない青の絵画の原画を見ることだ。ここのところすっかり忘れていたが、ナノはその夢も叶えたかった。


「そのことなんだけど……ステラは本当に原画を見たくて旅をしてるのかな」

「え?」

「疑ってるとかじゃないんだけど。ユーリの絵が見たい! って感じがあまりしなくて。それにユーリはもともと売るつもりのない絵を描いていたのに、複製が流通してるのも、なんか変な話だなあって。まあ、ユーリの親戚の人が勝手に複製を描かせて売ってたなら別だけど」


「言われてみれば……」

「ま、僕の思い込みだからとやかく言えないけど。でも、ナノの力になりたいんだろうなってのは伝わってくるから、いいんだけど」


 イーズがパンくずを手に乗せて空に向かって伸ばすと、海鳥がそこに集まってくる。パンくずがなくなると、用済みだと言わんばかりに鳥は飛び去っていく。


 ナノも同じようにしてみたところ、鳥が一気に集まり頭を突つかれた。どうやら攻撃できる人物を、鳥は見極めているらしかった。

 港町に到着してから、次の船の時間を確認する。今晩、出航して二日後の昼頃に到着する船がある。

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