第46話

「あ……えっと、私を育ててくれた人が描いた絵を探すために旅をしています。彼とは血のつながりはないのですが、父のような存在で。亡くなった後に、実は画家だったと聞かされて」


 店主はほう、と言いながら顎ひげを撫でた。その話を聞いていた奥さんが、まあ、と少女のような声をあげる。聞けば昔、美術をかじっていたそうだ。


「その画家さん、お名前はなんとおっしゃるの?」

「ユーリ・シオンといいます」


「まあ、有名人じゃない! 急に画家をやめたものだから惜しまれたものよ」

「ありがとうございます。わたしは青の絵画、という絵の原画を探しているんです。ユーリは原画をどこかに持ち出して……家には置いていなかったからどこかに隠していると思うのですが」


「青の絵画は彼の代表作だものねえ。あの絵が出回っていたときは……あなたはまだ小さいでしょうから、見たことがないかもしれないわね。ちょっと待っててね」


 奥さんは店の奥に小走りで入っていく。その後ろ姿を見ながら、店主は苦笑した。なかなか絵の話をできる人がいないものだから、と。

 戻ってきた奥さんの手には古い冊子が握られていた。


 すべて白黒で印刷されており、奥さんがぱらぱらとめくる。広げたページにはだいぶ若いユーリの写真が載っていた。今のイーズやステラより少し歳上くらいに見えた。


「当時、青の絵画を初めて発表したときの彼のインタビュー記事なの。このインタビュー内容に感銘を受けて、船に乗って絵画を見に行ったものだわあ」

「長い船旅が老体に堪えたのをぼくも覚えているよ」


 店主が薄くなった頭をかきながら笑う。そんな店主のことなどつゆほども気に留めることなく、奥さんは話し続けた。


「現地で見た青の絵画は素晴らしかったわ。色づかいも独特でねえ。本当に青だけを使ってて。このインタビューにも書いてるんだけど、青といってもいろんな青があって……」

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