第91話

 ナノはイーズにむかって手を伸ばす。すぐに届くはずなのに、とても遠く感じた。その距離をこんなにもどかしく思うなんて。


 もうすぐイーズに触れられそうなところで、置いていた釣り竿に引きがあった。

 ナノは慌てて釣り竿を手にするが、魚のほうが強いらしくふんばりがきかない。


「イーズ! 手伝ってくれー!」

「う、うん!」


 イーズが後ろから手を回し、ふたりで釣り竿を引っ張る。せーの、と声を合わせて釣り竿を引き上げると、勢いあまってナノはよろめく。

 おっと、と言いながらイーズがナノを支える。


 ナノが礼を言うよりも早くイーズはさっと網を手にして魚を捕獲する。バケツの中に入れても、狭いのか魚は大げさに尾を水にぶつけていた。


「大きな魚だね」

「うん。今日は焼き魚だな。ありがとう」

「いえいえ。よかったね」


 イーズの手がナノの頭に触れる。羽がふんわりと乗るような触れ方は、やっぱりいつものイーズだった。



 この島にやってきて、一週間が経過した頃手紙の返事が来た。


「ネモちゃんから返事が来たわ。ユーリと青の絵画を隠したのはやっぱりネモちゃんだったみたい。読みが当たってよかったわあ……ええっと……『ユーリに育てられた娘なんて、ろくでもなさそうで不安ですが、隠し場所は手紙では書きづらいので、こちらによこしてください。仕方ない』って……つまりナノちゃんに会いたいってことかしらね」

「なんか素直じゃねえな……」


 手紙は全体的に刺々しい言葉で埋め尽くされていた。三人は揃って苦々しい顔になる。

 それでもネモが青の絵画の所在を知っている可能性があるのなら、目指すしかない。幸いにも、彼女はナノに教えてくれるつもりはあるようだ。


「明日にでも発とうと思う。イーズ、ステラ、いいかな」

「うん。僕は賛成」

「反対する理由はねえよ」

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