第59話

『進捗を報告しろ』


 たった一文。ステラは手紙を丸めて、郵便局内のくず入れに放り込んだ。

 最後に報告の手紙を書いたのはいつだったか。それからしばらく足止めをくらっていたのもあって、進捗という進捗もない。


 ──それくらい想像できないもんかね。待てねえのかよあの人間様は。


 郵便局を出てからふらふらと街をさまよう。行くあてもないので、とりあえず港に行ってみた。

 港は相変わらず人、人、人。ほとんど旅人だ。どうにか人をかき分けて案内板に進む。


「……イーズの言ってたとおりだ。三日後……」


 三日後には小島への船が出る。そうすればレオ・ブルースターに会い、青の絵画についての話が聞ける……かもしれない。

 ナノとイーズによれば、レオという男は腕のいい彫り師で、ナノの左腕にマーメイドを彫った。そしてユーリ・シオンの旧い友人でもある。


 青の絵画について有益な情報をレオが知っているとはとうてい思えなかった。ナノもイーズもそれを承知の上だけれど、それならば果たしてレオにわざわざ会う必要はあるのか──とさえ、ステラは思っていた。少し前まで、は。


 ナノが本当に求めているのは青の絵画そのものではないのだろう。

 ナノと旅をする中でステラはそう考えるようになった。


 ナノはユーリの弟とも親交があるようで、彼に青の絵画を見せたいという話も旅の中で聞いた。それも決して嘘ではないけれど、ナノの目的はいまだによくわからないままだったし、ステラ自身もそんなナノを見ていると自分がどうしたいのか、どうすべきなのか迷う。


 正直なところ、ステラは芸術などつゆほども興味がない。

 腹が膨れるわけでもなければ、懐が潤うわけでもない。なくても生きていける。満たされるのは自尊心くらいだろう。

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