第123話

「なに見惚れてんだよ」

「いやあ……男前だと思って」

「へえ。ナノもそういうこと考えるんだー」

「男前を男前だと言ってなにが悪い」

「……おれには言ってくんないのに。目の前にいるだろ男前」


 ナノは鼻で笑った。半分冗談だったのに、ステラは内心ざっくりと傷ついていた。

 気を取り直すように咳払いをひとつして、ステラはナノの用件を聞く。


「小腹が空いたからなにか食べ物を持っていないかと思って」

「……はあ。ちょっと待って。お菓子持ってたような……」


 ステラはベッドそばに置いていた鞄の中を探る。少し前に買った乾パンがあったので、それをナノに渡す。

 ナノは満足そうに乾パンを食べている。丸い頬が咀嚼に合わせて動くのをじっと見ていた。同じ動きしかしないのに見飽きない。


「あんなに夕飯食ったのに。成長期かよ」

「……本当は……なんだか、ひとりになりたくなかった。三人でいると、ひとりになることを考えなかったのに。イーズがあんな目にあって、わたしはまたひとりになるかもしれないんだって思った」


 ナノは頼りなく笑うとまた乾パンを口にする。ぼり、という乾パンを噛み砕く音だけが部屋に響いた。


 ゾロの話を聞いて、ナノはいわゆる『かわいそう』な境遇にあるのだろうと思う。ナノに対して同情心がないわけでもないけれど、ステラをナノの隣にいさせる別の理由もある気がしていた。


 横から手を伸ばして、ステラは乾パンをひとつ手にした。ナノが噛み砕く音に重なるように、ステラも咀嚼する。ぼり、ぼり、がりっ、と軽やかな音がした。


「ありがとうステラ。邪魔したな」

「うん。あー、ひとりになりたくないなら、まだいていいけど。気の済むまで」


 我ながらなにを言っているんだ、とステラの顔が一気に熱くなる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る