第33話
「なんだか、小さい頃みたいだ。まさか大人になってもこうだとは……情けない」
「いいんじゃない。僕は……」
イーズがなにかを言いかけたところで、ナノは正面から歩いてきた大柄の男性にぶつかり、吹っ飛んでしまった。ナノの後ろを歩いていたステラが、タイミングよくナノをキャッチしたので、転ばずに済んだ。
大男は黒いレザーのジャケットを羽織り、猛々しく盛り上がる筋肉を強調するかのような白いシャツを着ていた。
帽子を目深にかぶり、ステラに支えられたナノを一瞥すると、なにも言わずに人混みの中に消えていった。
「……あいつ……」
「知り合い?」
イーズの問いにステラは首を振りつつ、大男が見えなくなるまで睨みつけていた。その間ずっと抱えられるような体勢だったので、ナノはステラの腕をちょいちょいとつついた。
三人は大通りからひとつ路地裏に入り、どうにか人波を抜ける。
「けがねえか?」
「ありがとう、大丈夫だ」
ステラが両手でナノの髪の毛を整える。人にもまれてボサボサになっていたのが気になるらしかった。
「なんでこんな人が多いのかね。飯どきだからか?」
「落ちつくまで近くの店に入ろうか。ちょうどよさげな店があるよ」
路地を一本入れば、三人でも入れそうな敷居の低い店が並んでいた。激辛と書かれた看板にナノが吸い寄せられていくが、イーズとステラに引きずられ別の店に入る。
いらっしゃい、と威勢のいい女性の声がカウンターの奥から聞こえる。カウンター席しかなく、こじんまりとしており、店内は香ばしい匂いで満ちていた。
頭に長く白い耳を生やした店員がお冷を持って跳ねるようにやってくる。うさぎの獣人のようだ。
「お? お客さんも獣人かい?」
「おう。黒猫だぜ。なあお姉ちゃん、この街っていつもこんなに人が多いのか?」
「いつもはもう少し静かだよ。大きな客船が入ったから今日は特に人が多い」
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