3 海と旅人
第32話
港町に到着すると、賑やかな市場に到着した。さすが港町というだけあって様々な種類の食べ物──果物や魚介類が多くを占めている──がずらっと並んでいた。あとは珍しい雑貨なんかもある。
人波に飲まれそうになりながらも、たくさんの店に惹かれる。ヴェルデ村にも市場はあったけれど、規模が格段に違う。店の数は十倍、いや二十倍はゆうに超えるだろう。
「とりあえず船の出る時間を確認しよう。それから宿を取って、出発は早くて明日くらいになりそうだ」
「それもだけどさあ、せっかく港町に来たことだし、美味いもんくらい食いてえな」
「おお! 新鮮な魚介類にあの香辛料をつけて……!」
盛り上がるナノとステラの横で、イーズはひとり難しい顔をしていた。
「そうしたいけど……ちょっと財政的に厳しいかもしれない。三人分の船賃が高くつきそう。節約したいところだね」
イーズの言葉にナノとステラはがっくりと肩を落とす。ステラにいたっては、黒い耳と尻尾もへこたれていた。
イーズの眉毛がしばらく下がったままで、もうどうにもならないことをナノとステラは悟った。無い袖は振れない。
三人は人混みに揉まれながら食事処を探す。ナノはなかなか人をうまく避けられず、目を回す。都会の洗礼を受け、心が折れそうになった。
ナノはイーズの服の裾を掴んだ。イーズは大海原をものともしないクジラのように人並みをかき分けていく。ナノのふた回りは大きなイーズを羨ましげに見上げる。
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