第138話

「……はあ。なんかイーズと話してると、やっぱ敵わねえって痛いほど思い知らされる」

「敵わない? なにを競ってるんだよ」

「……ナノの隣にいるのは、どっちなのか」


 ステラはイーズの目をまっすぐに見つめる。

 最初に出会ったときのように、逸らしたほうが負けのような雰囲気になる。あのときはどちらが逸らしたんだっけ、とイーズはちらりと思った。


 ステラの目は本当に星みたいだ。金色できらきらしていて、澄んでいる。その奥はとても明るいところへ通じているのだろう。


 かたや自分はどうだろう。きっとステラのような目はしていない。

 そう思った瞬間に、イーズはステラから目を逸らした。


「……それは、ナノのことを……」

「好きだってことだよ」

「……いいんじゃないかな……ステラは、ユーリに似てるし。きっとナノの隣にいるのに相応しいと思う」


 ステラは眉をひそめ、逸らしたイーズの目をもう一度覗き込むように目を開く。


「ユーリに似てるから? ユーリは関係ねえだろ。おれがナノの隣にいたいんだよ」

「関係あるよ。ナノはユーリを愛してる。ユーリにならなきゃ、ナノの隣になんかいられない」


 かすれている自分の声が情けなくて、震える指をごまかすようにイーズは自分の腕を強く掴んだ。図らずとも自分を守るような体勢になる。


「おまえもおれも、ユーリにはなれやしないよ」


 ステラの言葉がとどめの一撃のように刺さる。

 そんなことわかってる。そう思うのにイーズはなにも言い返せない。


 そんなイーズの心中を見透かすように、ステラはあまりにまっすぐな目をするから、イーズのほうが怯んでしまいそうだった。

 ステラは溜息をつきながら立ち上がると、イーズに対し背中を向け、洞窟の外を窺った。雨足は弱くなってきたものの、まだ黒い雲が空を覆っている。


 ──強くなりたかったのに。


 なにをしても、ナノにちゃんと触れられない自分のままだ。

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