第15話

「迷惑かどうかは僕が決める。ナノが嫌だって言っても、僕はナノと共に行くよ」


 いつも優しい目をしているイーズは、見たこともないような顔をしていた。濃茶色の目は澄んでいるのに、その奥はだれにも見透せないような暗い色をしていた。どこまでも続いている、目的地のわからない道のような瞳だった。


 ひとまずは手紙の返事を待つしかなく、その間にイーズは休学届を出しておくことになった。

 卒業が遅れてしまうのをナノは懸念したが、イーズはあっけらかんとしている。


「……僕は将来なにをしたいのか迷ってるんだ。このまま卒業すれば流れで軍に入るんだろうけど、それでいいのかなって。卒業前に頭を冷やして考える期間ができて、いいと思ってる。あ、これ父さんと母さんには秘密ね。ふたりとも心配しちゃうから」

「そうなのか。イーズでも迷うことはあるんだな」

「そりゃあね。迷ってばっかりだよ。とりあえず休学の話をしなくちゃ。じゃあね」


 イーズはナノの家を後にした。

 イーズの姿が小さくなるまで、ナノは玄関の外で見送っていた。胸に手を当て、頭を下げたまま。


 

 それからしばらくしてナノの元に手紙が届いた。差出人はレオ・ブルースターと書かれていた。手紙を出してから返事をもらうまでに、てっきり一ヶ月くらいはかかるものと思っていたけれど、ずいぶんと早い。

 ナノはレオからの手紙を胸に当て、心の中で礼を言った。


『ナノちゃん

 おひさしぶりです。お手紙ありがとう。私にわかることなら全部お話しします。あなたに彫ったタトゥーの経過も見たいわね。

 きっと素敵なレディになっていることでしょうし、お会いできるのを楽しみにしています。これから私はまた旅に出ます。


 ナノちゃんがいる村からは少し離れたところにはなりますが、しばらく滞在しているのでそこで落ち合いましょう。暖かくていいところなの。

 本当は私が村へ行くべきなのでしょうけど、難しそうです。長い旅になるでしょうから、気をつけて。


 追伸 船に乗ると、比較的楽に移動ができるので船賃をこっそり入れておくわね。それでは』

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