第159話
そうこうしているうちに干潮になり、早朝に黄金色に染まっていた海面はすっかり砂浜になってしまった。夜中は足元を気にする余裕はなかったけれど、青空のもとの砂浜は目を細めてしまうくらいに真っ白だった。
砂浜にそっと足を踏み入れると、靴の形が残る。数歩歩いて振り返ると海水を含んだ砂が盛り上がって、足跡を隠す。ときおり道の真ん中を小さなカニが歩いていた。
イーズはネモを背負い、ステラが絵画の入った箱を運ぶ。手ぶらでは申し訳なかったので、ナノは革袋に入った絵画を一枚だけ持った。
「夜中だと遠く感じたのに、明るいとすぐ近くに感じるな」
「目的地がよく見えるからじゃね?」
「なるほど。たしかに」
ステラの言うとおり街並みがはっきりと見える。夜中は砂漠を進んでいるような気分だったけれど、今はそうでもない。同じ距離のはずなのに、不思議な感覚だった。
話しながら進んでいるうち街の海岸に到着する。鳥の声と波の音しかしておらず、海岸に小船が停まっているくらいだ。
ふう、とひと息ついていると、ひとりの男がナノに近づく。
「ごくろうさまでした」
男はナノが持っていた絵画に手を伸ばし、奪い取った。
「……返して! 触らないで!」
ナノは男に掴みかかるけれど、すぐに振りほどかれ、砂浜に投げ飛ばされた。
ナノを庇うようにイーズとステラが前に出る。
「ん? おまえは……」
「なんであんたがここにいるんだ! ……アヴァリー!」
アヴァリーは三人を一瞥して小さく溜息をついた。汚いものを見るかのような目を向け、絵画を小脇に抱える。
アヴァリーの後ろからふたり、男たちがやってきて、にらみを利かせていた。
「なんじゃなんじゃ! 穏やかではないのう」
「穏やかではないとは……それはあなたがた次第だ。無駄な時間を取らせるつもりはない。青の絵画をすべてこちらにお渡しいただきたい。そうすれば危害は加えない」
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