第2羽♡ 金髪碧眼エルフJKのおみやげ

 考えがまとまらないまま楓の唇に自分の唇を少しずつ近づけていく……。


 これは絶対にまずい。


 でも……もう止められない。


 楓の顔はすぐそこに……。


――ピンポーン♪


 家のインターフォンが誰かが来たことを告げる。


「うわっ」

「きゃ」


 俺も楓も音にびっくりして、互いに後ろへ飛び退いていた。


「だ、誰か来たみたいだからインターフォン見てくる」

「う、うん……凛ちゃん来たのかな?」


 ……良かった。

 俺は今、楓に何をしようした?

 頭の整理がつかないままインターフォンの画面を覗くと金色の少女が手を振っていた。


「おまたせ~」

「おう」


 制服をやや着崩した少女が人懐っこい笑顔を浮かべている。

 

 金と銀の中間のような透き通る髪をミディアムショートで流し、白よりも白い肌、空のような薄い蒼の瞳、北欧と日本のハーフで、その姿はまるで絵本の中のお姫様またはファンタジー小説のエロフ……おっと失言、エルフと言われても疑わない。


 さっきまで学校で一緒だったはずなのに改めて見るとその姿に幻想的な美に心が奪われる。

 

 前園凛、白花学園高等部天使同盟一翼「放課後の天使」、白花学園の男子生徒は一度は前園に恋をするという噂まである美貌の持ち主。


「ん~どうした緒方? オレに惚れたか?」


 前園は吸い込まれそうになる笑みを浮かべ澄んだ蒼の瞳が俺を覗き込む。瞳にはそのまま狼狽する俺の姿が映りこむ。緊張感からか首筋に一筋の汗がたらりと流れる。

 

「なんてな……まぁ緒方が本気ならオレはいつでもいいけど」


 少年のように二カっと笑う。一人称は「オレ」、可憐な容姿のまま快活に話す。

 

 白花学園中等部からの内部進学組で中等部出身者からはカリスマ的な人気がある。その上頭脳明晰で運動神経も抜群、こんなチートが家に来たら俺じゃなくても緊張するだろう。


「てか……お邪魔してもいい?」

「あぁすまん、そこのスリッパを使ってくれ」


「ありがと~お邪魔しまーす。楓は?」

「中にいる」


 廊下を通り抜け前園をリビングに連れていく。冷蔵庫から出した麦茶をコップに入れ、前園の分を用意していた。


「よ~楓来たぞ~」

「いらっしゃい凛ちゃん……ってわたしの家じゃないのに言うのちょっと変かな」


「もう事実婚みたいな感じなんだから気にするなよ……ん? 楓ちょっと来い」

「……どうしたの? 凛ちゃん」


 きょとんした顔をした楓が首を傾げた楓が金髪少女の前に寄っていく。

 

 前園は神妙な面持ちで楓のおでこに手を当てるなり、手のひらを見たり、楓の瞳を覗き込んだりとせわしなくあれこれする。

 

 楓は終始クエスチョンマークのついた表情のままされるがままになった。しばらくしてから前園は怪しげな行動を止めると「ふっー」と大きなため息を尽く。


「すまないふたりとも」

「どうした? 前園」


「さっき事実婚とか言ったけど、実際ふたりがそこまで進んでるとは思ってなくって……こんなに上手くいってるならイチャイチャ後のお風呂での洗いっこタイムが終わった辺りを見越して来ればよかった」


「「はぁ~~~~~~!?」」


 俺と楓はふたりして前園の妄言に変な声が出た。


「り、凛ちゃん、何を言ってるの!? そんなこと全然ないから! 私も今日こそとか全然全く一遍も考えてないから!」


「そうだ前園、いつも言ってるけど楓と俺は親友でそれ以上でもそれ以外でもないから」


 すると前園がげんなりした顔で俺を見て上で楓につぶやいた。

         

「緒方は相変わらずだし……楓も大変だな」

「凛ちゃん別にいいの。いつも通りだからいつも通り……はぁ」


 楓はなぜか二度も「いつも通り」を言った上でため息をつく。

 

 よく分かってないのは俺だけ?

 どこかで地雷を踏んだか?


「ところで凛ちゃん、美味しそうな匂いがするんだけど?」

「あ、そうだった。緒方の家に来る途中に赤い看板の焼き鳥屋さんがあるじゃん? あそこでお土産に買ってきた」


 前園はカバンとは別に持っていた赤いにわとりの絵がプリントされたビニール袋を楓に渡す。


「ありがとう。凛ちゃん」


「焼き鳥公国少佐のことか? あそこは旨いんだよ。秘伝のタレを使った『ボーヤでもおいしく食べれる特性三倍焼き』が絶品なんだよな!」


「そこそこ! オレみたいな金髪でサングラスをかけた渋いイケオジが店主で……って、あれ?」


「どうした前園?」


 前園が怪訝な表情を浮かべた。


「たった今、太陽が昇る方角から『それ以上その話題に触れるな!』って言われたような気がした」

「よくわからんが深追いすると危険なのかもしれないな、この話はここまでで」


「凛ちゃんは昼ご飯食べたの?」

「ここに来る前にバイト先に寄ってきたから、そこで賄いを食べたよ」


 前園は月に何回か知人の漫画家さんのアシスタントをしてるらしい。つくづく多芸なやつだ。


「じゃあ凛ちゃんが買ってきた焼き鳥は後で食べよう!」


 その後、俺たちは夕方まで小論文を書く事に没頭した。


 楓はこの前の中間テストで学年二位で前園は三位、どちらも集中力が高い、そんなふたりがいるせいか俺も引きづられて小論文はどんどん進む。

 

 楓は小論文を書き終え、俺と前園も八割終わったところで休憩することとなり、前園の買ってきた焼き鳥を食べることにした。


 焼き鳥は冷めたままでも美味しいが、温めるとより美味しいので電子レンジでチンする。その間に焼き鳥に合いそうな緑茶を三人分に入れる。


「前園、楓は緑茶でいいよな?」

「ん~大丈夫」


「カスミ、お茶なら私が入れるよ」

「大丈夫だから前園とくつろいでてくれ」


「は~い」

「うい~」


 カーペットの上で楓は前園の頭を膝まくらしながら日の光で輝く金糸のような髪を優しく撫でている。


 前園は毛並みを整え貰ってる飼い猫のように気持ち良さそうにしている。ふたりの天使がリラックスする姿はさながらルネサンス期の絵画のよう。


 問題なのは女の子座りをする楓の太ももがやたら柔らかそう見えるし、前園に至ってはブラウスの襟元から二つ目までのボタンを外しているため呼吸に合わせブラウスの隙間から柔らかそうな白磁の谷間が隆起するし、短めのプリーツスカートも若干捲れてて長く細い足の先がもう少しで露わになりそうなっている。

 

 こんな神々しい映像を一人独占していることが学園のヤロー共にバレたら直死の呪詛をかけられるに違いない。

 

 何よりこれ以上この素晴らしい光景を見続けると俺の理性が持たない。俺は清水の舞台から飛び降りる覚悟で泣く泣く目を離した。

 

 既に脳内SSDハードディスクにこの神画像を永久保存済なのは言うまでもない。


 焼き鳥は、楓がささみと皮、前園がつくねとレバー、俺はねぎまと手羽ををそれぞれ一本ずつ選んだ。


「ん~~~美味しいこのタレ最高。ご飯にかけたら何杯でもいけそう」


 前園がほっぺに手を当てて嬉しそうな声を出す。


「本当に美味しいね。食べ過ぎちゃう」


 楓もご機嫌な様子。女の子が嬉しそうに食べているところって実に良いと思う……ってことを考えていたら突然スマホが鳴った。


『もしもし緒方君、すまない今いいかな?』

「はい大丈夫です。ちょっとだけお待ちください」


 俺はスマホを持ったまま自室に移動する。

 連絡はアルバイト先の店長からだった。

 

 内容はアルバイトメンバーに急遽欠員が出たためシフト変更の相談だった。しばらく店長と話し込んだ後、電話を終えリビングに戻る。


「お疲れ~」

「おう悪い」


「気にしなくていいよ。バイト?」

「ああ、シフトメンバーが一人抜けるらしくて来週から少しだけ忙しくなりそう」


「じゃあ姉さんにも連絡が届いてるかも?」

「そうだな」


 俺のアルバイト先は楓のお姉さんである加恋かれんさんに紹介してもらった。

 でも加恋さんは大学が忙しいらしくあまりシフトには入っていない。


「緒方はよく働くよね~ほどほどにね」

「ありがとう……ん?」


 俺はあることに気が付いた。


「ねぎまがない……俺のねぎまがな――い!」


 ねぎまが好物なので、大切に食べようと二本目に取っておいたがいつの間にか無くなってる。

 おかしい、絶対におかしい!

 

 だからと言って楓や前園が俺の分を食べるとは思えない。

 

 その時だった――!


「ぐはっはっはっ、貴様のねぎまはこのわたしが美味しく頂いた! 

Dear My お兄ちゃん様」

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