第13羽♡ 屋上出口で色づく枝垂れ桜(上)
カスミ「話があるんだけど」
さくら「二時間目の終わりに屋上出口で」
赤城さくらは隣の一年A組にいる。
用があるなら隣の教室に行き声をかけるのが手っ取り早い。
でもさくらと学校でふたりきりで会う場合は、まずはRIMEで連絡して時間と場所を指定するのが暗黙ルールになっている。
なぜかって?
俺たちには周りに聞かれると都合の悪いことが幾つかあるから。
さくらとは昨日の夜、電話で少しは話をしたけど二言三言会話を交わしただけですぐに切られてしまった。
電話の前にさくらがRIMEで送ってきたメッセージ件数は大量の上、最後に殺害予告付きの狂気じみたものだったことから、さぞかしご機嫌斜めなものと思いきや、いざ電話で話すと落ち着いており普段通りのさくらだった。
ひょっとして俺をからかっただけ?
そもそもさくらに怒られるようなことはしてない。
昨日は楓と前園が家に来て一緒に課題をやっただけ。
落ち度が上げるとするなら、事前にふたりと課題をやることをさくらに連絡しなかったことくらい。
大した問題じゃない。
高校生が友達と家で課題をやる。
どこの高校生だって、高校三年間で一度くらいはやることじゃないか?
たまたま家に来たのが校内屈指の美少女ふたりってだけで。
まぁそれが問題か……。
では、さくらが怒っていないというのは俺の都合の良い解釈で実際は物凄く怒っていると仮定する。
逆鱗に触れた俺はどうなるかというと、恐らく待ち合わせ先の屋上出口付近でさくらに撲殺される。
本日をもってモブ系陰キャ男子高校生が一人、この世界から消える。
そして猛将赤城さくら武勇伝にフィアンセ抹殺の一行が追加される。
これがさくらが主人公の小説だとするなら『モブ系陰キャ腐れフィアンセが性懲りもなく他の女と浮気したのでついつい撲殺しちゃいました。ざまぁ♡』とかになるかな。
最後に♡をつけてもバイオレンス感が全くなくならない。
そして原形を留めず屍をさらすでだろう俺。
他人事ならフィアンセがいる上での浮気なら最低だし『ざまぁ』でも仕方ないのかもしれない。
でもさ……。
重ねて言うけど俺は浮気をしていない。
撲殺されなきゃならない道理がない。
さくらに抵抗したところで圧倒的な火力の差で勝ち目はない。
現役体育会で身体能力が異常に高く、剣道、空手、柔道、あと謎の護身術、合わせて十段以上の赤城さくらの手足は凶器とイコール。
世界を滅ぼそうとする魔王からすぐにスカウトが来そうな人材がたまたま女子高生で、ついでに俺のフィアンセだったりする。
機嫌を損ねた時点で俺を待つのはBADエンドへの直行ルートのみ。
うーん。
やっぱり設定おかしくないかこれ?
これがゲームなら無理ゲー過ぎる。
プレイヤーの心が折れて即サービス終了になるレベルじゃないか。
俺は逃げたい。
自らの命を守るために……。
だって死にたくないもん……!
さくらたん、お願いだから殺さないで~!!!
ぴえーん!
さて……。
大魔王さくらたんの妄想にふけるのもほどほどにして、二時間目の授業を終えた俺は足早に愛しのマイ・ハニーに逢いに向かう。
第二校舎の中央螺旋階段を登る。
元女子校のせいか建物を含め学園全体がモダンな造りになっている。
木製で『カタン・カタン』と音の響く螺旋階段を登る。屋上に近づくにつれ辺りは段々と陽の光で明るくなっていく。
殺風景だった公立中学の校舎と比べると圧倒的に雰囲気のある白花学園の校舎。
もしも、どこかのテレビ局が学園ドラマを撮るなら是非お勧めしたい。
待ち合わせ場所の屋上出口は昼休みなら誰かいるかもしれない。
さすがに僅か十分しかない授業合間の休み時間にわざわざこんなところに来る生徒はいない。
白花学園は都内でも屈指の進学校。
授業をサボる生徒はいないから、人気がない場所も不良のたまり場にはならない。
三階屋上出口まで登ると、出口横の壁に寄っかかる彼女は腕を組み、いつものように微笑を浮かべ待っていた。
レッドブラウンの髪をポニーテールにして高めの位置で結び、切れ長の瞳と長い睫毛、整った鼻からなるその容姿は気高さ、意志の強さを感じる。
武道家らしくすっと延びる姿勢は即モデルで採用されそうなほど美しい、身長は百七十センチ弱の前園よりも高く俺とほぼ同じ。
生家は旧華族で現在も多くの会社を経営する由緒ある家柄で、世が世なら伯爵令嬢。
フリルの付いた深紅のドレス、口元を隠す扇子が誰よりも似合いそう。
常に優雅な天使同盟一翼『櫻花の天使』赤城さくらはそこにいる。
「ごきげんようマイ・ダーリン」
「待たせたなマイ・ハニー、早速だけどいいかな」
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