第46羽♡ 前園さんのこと教えて(上)
中尾山山頂は、売店や茶屋などの施設が充実している。
登山客は大抵この山頂で昼休憩をとるため、茶屋はいつも混んでるし、持参したお弁当を食べる場合もレジャーシートを引くスペースが限られてしまうほど人が多い。
麓から午前十一時過ぎに出発し、現在の時刻は午後十二時を超えたくらい。
時間的にも丁度良い。山頂にはまだ到達するまでもう少しかかりそうだけど、登山コースに設けられた小さな休憩所で休憩と合わせて昼ご飯を食べることにした。
俺が持って来たのは二人分のおにぎりは四つと唐揚げとミニトマト、どこに出かけるかはさっきまでわからなかったから、荷物にならない軽いものした。
「おにぎりの具、おかかとしゃけしかないけど良いか?」
「どっちも好き~」
いつものようにニカっと笑い少年の様に笑顔をする。
この気楽な感じが良い。
「はぁ~やっぱ空気が上手いとご飯が三百倍おいしい~!」
「おにぎりだから誰が作ってもおいしくなるよ」
「この唐揚げも冷めててもカリッとしてるし~味もまろやか~」
「今日の唐揚げはごま油が隠し味だ」
「ん!? ミニトマトフルーツみたい甘い」
「家のそばに無農薬野菜が安くで買えるとこるがあって一番人気がこのミニトマトなんだよ。田舎育ちで野菜にうるさいリナもここのはよく食べる」
一つ一つ喜んでくれるのは嬉しい。
食べさせ甲斐のあるエルフさんだ。
作り手冥利に尽きるというか。
「いいなぁ妹ちゃん。毎日美味しいもん食べれて」
「楓の料理に比べればまだまだだよ」
「確かに楓のご飯も美味しそうだよな……困ったな、オレの嫁、楓と緒方どっちにしよう!?」
「俺は嫁になれないし、前園が楓を嫁にしたらそれも大変だろ」
「いいじゃん楓、かわいいし健気だし……オレが女の子にならあーゆー子になりたいと思う!」
「前園さん、あなた元々女の子だよね~それもすげ~かわいい」
「緒方にすげ~かわいいって言われた。後でRIMEで楓に自慢しとく。
四月に同じクラスになってしばらくの間は緒方と楓が付き合ってるものだと思ってた」
「中学の頃にも言われたことがあったよ、俺と楓は親友だから、そういう関係じゃない」
「わかってるよ。楓にも同じこと言われたし、
でもさ、ふたりとも良い雰囲気になりそうになるとブレーキを掛けてる気がする」
「そんなこと……」
――あるかもしれない。
今だって登下校は一緒のことが多いし、俺に友達が少ないこともあり楓と一緒にいる時間は長い。
中学の頃はもっと一緒にいる時間が長かった。
俺も楓もクラスで孤立してしまい話す相手がお互いしかいなかったから。
放課後は受験勉強のため、互いの家を交互に入り浸ってたし、週に何回かは晩御飯を一緒に食べてた。
距離が近すぎてドキドキしたことだって数えきれない。
目の前にある綺麗な顔に触れてしまいそうになったことも……。
邪魔するものなんて何もなかった。
ふたりだけの緩やかな時間。
でも、それ以上先には決して進まない。
緒方霞と望月楓の関係は壊れることのない安全な『親友』という間柄で終息したのかもしれない。
これから互いが変わらないことを祈りつつ……。
「俺に協力できそうなことがあったら相談してくれ。
さくらや妹ちゃんからめちゃくちゃ責められそうだけど」
……それは怖い。
女子サッカー部コンビはストイックで一切手を抜かないから徹底的に絞られそう。
前園が客観的な視点で話を合わせてくれるので、自分の周りの人たちのことが頭の中で再整理できる気がする。
普段教室にいる時もほとんど友達のいない俺に話しかけてくれる。
夜になるとソーシャルゲームでギルドメンバーになる。
いつの間にか前園凜は俺の日常の一部になっている。
これだけ関わっているのに俺は前園のことをあまりよくは知らない。
まだ知り合って付き合いが短いせいもあるけど。
「なぁ前園?」
「ん?」
「今度はお前のこと教えてくれないか」
「オレのこと? え~とじゃあまずはブラのサイズだけど……」
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