第73羽♡ 楓七変化(バージョン3:メイド)(上)


午後12時まであと僅か……。


嵐の様な午前中の試練を耐えた俺は、魂が抜けた状態でリビングにある3人掛けソファーに腰を掛けている。


ナースコスプレから着替えて戻ってきた楓は、キッチンでお昼ご飯を作っている。


俺も手伝うと伝えたが、『今日のカスミはお客さんだから』と言われたので、

仕方なくくつろいでいる。


家では俺が料理を作ることがほとんどなので、人に作ってもらうのは何となく落ち着かない。


とは言え午前中の試練が強烈過ぎたせいもあり、精神的にはかなり消耗しているので、この休憩自体は好ましい。


それにしても午前中の楓さんは暴風の如く凄まじいものだった。


私服な楓もナースな楓も……。


「できたよ~」

「おっありがとう」


 キッチンから良い匂いを漂わせながら、先ほどまで勉強で使っていたガラス製のセンターテーブルに出来上がった昼ご飯が次々と並べられていく。

 

 キャベツやニンジンの入ったコンソメスープ、ポテトサラダ付きのトマト、レタス、コーンの入った生野菜サラダ、香りのいいダージリン・ティー、そして蕩ける様なふわふわ卵のオムライス。


 レストランメニューと言われても疑わない出来映えだ。

 さすがは俺の料理の師匠。


 オムライス自体は難しくないから俺も作る。でも楓のような達人の域には達していない。


「おまたせしました……


 頭には刺繍入りの白カチューシャを載せてツインテール、黒基調のワンピース、フリルの付いた小さめのエプロン、胸元には黒リボンを身に着けている。

 

 先ほどまでナースだった楓さんは、着替え終えた現在、かわいらしいメイドさんになっている。

 

 ワンピースの丈はナース服と同様にやたら短い。

 そしてもまたしてもスカート奥の絶対領域が見えそうな危険な丈の長さだったりする……。

 

 ――けしからんですが、とても良いです。

 

「どうかなさいましたか?」

「どうも何も……どうしてメイドになってるの!?」


「普段何かとお世話になっているので……今日はそのお礼としてご奉仕させてほしくて」

「むしろ世話になっているの俺の方だけど」


「ご奉仕させて頂きます!」


 ――ダメだ。

 聞く耳を持たない。

 強引に話を進めようとしている。

 

 でも顔はまたしても真っ赤だから、どうやらメイド姿が恥ずかしいようだ。

 

 楓さん……

 絶対無理してるよね?

 そもそも今日は期末テストに向けての勉強会なのに、どうしてそんなに頑張ってるの!?

 

 しかしこれはこれでかわいい……ま、いっか。

 

「じゃあお願いします」

「はいご主人様!」


 嬉しそうな笑顔浮かべるメイドな楓……うん、やはりすごく良い。

 

「では失礼します」


 オムライスの上にケチャップで何かを描いている。

 メイドカフェだとかわいいネコの絵なんかを描いてくれると聞いたことがある。

 

 メイド楓が書いたのは……

   

 俺のオムライスには「かえで♡」

 楓のオムライスには「かすみ♡」

 

 ん……? 

 なんでやねん?

 

「できました……最後にとっておきの『美味しくなる魔法』をかけますね。

 ゴホン。

 

 え~と……エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、

 

 我は求め訴えたり~断罪の6の月、天のいかずちは空を焼き~海は枯れ、荒涼した大地はしかばねの山となる。時鳥ほととぎすはその鳴き方を忘れ沈黙する。名もなき咎人とがびとよ、生き血を吸う戦鬼となり地獄の業火でその身を焦がせ!

 

 美味しくなれ~美味しくなれ~萌え萌えきゅーん♡」


 最後に定番の両手でハートマークを作る。

 この仕草は、写メで撮りたいくらいかわいいらしいのだけど……。

 

 『美味しくなる魔法』が変じゃなかったか? 

 

 ところどころ毒々しいというか禍々しいというか。

 呼んではいけないヤバいもんが召喚されてきそうというか……。

 

「ご主人様、おいしくなる魔法が終わりました」

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