第72羽♡ 楓七変化(バージョン2:白衣)(下)


「この聴診器でカスミの身体の音を聴いてみてもいいかな?」


「べ、別に良いぞ。Tシャツを脱げばいいか?」

「脱がなくて大丈夫! 絶対に脱がないで!」


「そうだよな……わかった」

「うん、じゃあ失礼します」


 楓はためらいながら聴診器の先を俺の胸に当てる。

 

「うーん。ちょっと聞こえずらいかも……」


「やっぱり脱いだ方が良いか?」

「で、でも……」


「まぁせっかくだし……」

「そうだね、じゃあお願い」


「わかった。脱ぐぞ」


「ま、待って! 向こう見てるから終わったら教えて」

「わかった」


 俺は羽織っていた紺の半袖シャツ、無地のTシャツの順に脱ぐ。

 楓は俺に背を向けているがプルプルと小刻みに震えている。

 

 あの楓さん……大丈夫?

 

 というか今俺たちを取り巻くこのシチュエーションは何?

  

「楓いいぞ」

「うん……」


 恐る恐る言った感じで楓でゆっくり振りむく。

 そして真っ赤な顔のまま大きく深呼吸を一回する。


「やっぱり細いね……肌の肌理きめも細かいし」

「あんまりマジマジと見るなよ、それより聴診器を当てるんだろ?」


「う、うん……」


 最初にお腹、次に胸回りの順で聴診器を当てていく。

 なんだかくすぐったい……。

 

 楓の顔はますます赤くなり今にも湯気が出そうに見える。

 

「すごい……カスミの胸がドキドキしてる」

「ドキドキしてないと死んじゃうだろ」


「……そうだけど、ちょっと心音が速い気がする」

「そりゃ聴診器を当てられたら緊張するっていうか」


「そっかぁカスミも恥ずかしいんだ」

「まぁな」


 正確に言うと際どい格好での聴診器プレーでドキドキしてしまい恥ずかしいです。

 そもそも楓さんのワンピースの丈が短すぎて、さっきからスカート奥の絶対領域エルドラドが見えそうです。


 サイズもピチピチだから全身のラインも丸わかりだし、白網タイツに包まれたおみ足もセクシー過ぎるし、スカートとタイツの間の僅かな生の太もも部分のムチっと具合もベリーグッドです。

 

 実際のナース服はこんなエッチぃもののはずがない。これは多分コスプレショップで売っている衣装だよな。

 

 でも仮にこの格好の楓さんが病院で働いているとしよう。


 入院した男性患者は退院したくなくなり、一日でも長く入院しようとするだろう。しかもそれだけで飽き足らず、あの手この手でナースな楓さんにエチエチなイタズラをするに違いない。そんなの羨ましいじゃない! 許せん!……とか考えてる場合じゃな――い!

 

 ねぇ、どうしちゃったの楓さん!?

 

 普段、超が付くほど真面目なのにこんなふしだら……いや、際どい格好を好んでするとは思えない。

 

 ひょっとしたら、これも非公式生徒会のシナリオで嫌々やらされているとか!?

 

「カスミどうかした?」

「いや……何でもない。それよりもう診察はいいか?」


「う、うん……ありがとう」

「じゃあ、勉強に戻ろうぜ」


 この後、白衣を着たままの楓と勉強を続ける奇妙な空間が続いた。

 時折視界に入るその姿はやはりエロい。


 白のワンピースから下着のラインがうっすらと透けてるし。

 よくよく見ると薄ピンクのリップも付けてるから唇も甘そうで色っぽいし……。

 

 たまにチロチロと楓が俺に視線を向ける。

 何か声をかけた方が良いのかもしれない。


 だけどこの特異過ぎる状況で、俺は何を喋ればいいのだろう?

 

 もてまくりのイケメンならこんなイベントも難なくこなすのだろうか?

 

 そもそも女子の家で勉強してるとナースコスプレが出てくるのは普通なのか?

 

 ダメだ――

 マジで訳わからん。

 そしてまたしても集中力が落ちている――。

 

 過酷な現実から逃げだしたい。いや、本当は勉強なんて置いといてナースな楓をずっと見ていたいが、そんなわけにもいかない。


 このままだといずれ欲望に負けるかもしれない。

 

 あぁ助けて……さくらたん


『浮気したらぶち殺すわよダーリン♡』


 ……どこからともなく危険な幻聴がした気がする。


 ですよね――

 ”おいた”したらさくらたんが容赦なくぶち殺しますよね……。

 絶対にいたしません。

 だから殺さないでください。

  

「はぁ……暑いね。わたしちょっと着替えてくるから待っててね」

「……お、おう」


 やはり恥ずかったのか、楓は突然立ち上がると自室に走っていった。

  

 楓の後ろ姿を見送った時、一瞬だがスカート部分がめくれて絶対領域エルドラドが見えてしまった。

 

 ……白でした。

 上も白ぽかったから上下揃えているのね……。

 

 すみません楓さん……悪気はありません。

 でもばっちり聖なるおパンツが見えちゃいました。

 

 テストのために覚えたことが頭の中から消えて、代わりに楓さんの素敵なお姿が占拠してます――!

 

 困りました。

 でもちょっとだけ、いやとても幸せです。


 それにしても……

 親友の前で上半身裸になり、お医者さんごっこに等しいことをしたこの事実を俺は生涯忘れないだろう。

 

 これって黒歴史になるのか?

 いや……エロ歴史ですかね。

 

 天国の母上様へ……

 やはり私はダメな子です。

 

 精神修行が足りてません。

 でも千年に渡り修行を積んだところでエチエチな楓さんに勝てるとは思えません。

 

 いっそのことボクも聴診器を借りて、けしからん格好の楓さんを診察した方が良かったのではと思います。

 

 でも聴診器を当てても大丈夫なところってどこでしょう?

 

 いや……当ててみたいところは沢山ある。

 でも絶対やってはダメだろそれ!

 

 勢い余って指診もしたくなってしまうかもしれないし。


『や……カスミそこに聴診器を当てちゃダメ!』

『ダメだ楓……ちゃんと検査しないと調子の悪いところを見逃してしまうから』


『う……わかったよ、でも優くしてね』

『楓、触れちゃいけないところに触れたとしても偶然だ、我慢してくれ』


『やぁん♡ そこはダメ』


 ぐはっ……。


 ダメだ……欲望の翼がどこまでも広がっていく。

 このままだと鼻血が出るか吐血する。

 

 今日は真面目なテスト勉強日の……はず。

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