第71羽♡ 楓七変化(バージョン2:白衣)(上)


 ――楓との勉強会を始めて二時間が過ぎた頃。

 俺はようやく自分のペースを取り戻し、集中できるようになってきた。

 

 考えてみると中学の頃も、ふたりきりの勉強に慣れるまで多少時間がかかった。

 初めは学校の図書室などを利用していたが、人目に付くとあれこれ言われることから、互いの家を交互に使うようになった。

   

「カスミどうかした?」

「いや、こうしてふたりで勉強するの久しぶりだから懐かしい気がして」


「五月の中間試験も一緒に勉強したけど」

「あの時は駅前のカフェを使ったから少し違う気がする」


「そうだね……カスミがウチに来るのホント久しぶり」

「最初は随分しごかれたよなぁ~俺の成績が中々上がらなくて」


「カスミが基礎を怠ってたからだよ」

「テスト前しか勉強やらなかったからな、それに東京に戻ったばかりで生活に慣れるのが精一杯だったし」


「カスミは部活もあったからね……」

「楓もあの頃は色々大変だっただろ」


「うん……カスミには随分相談に乗ってもらったよね」


 望月楓、旧姓まゆずみ楓と中学で再会した頃は、看護師のお母さんと二人暮らしだった。


 楓のお母さんが再婚することになった時は色々揉めたようだ。

 楓が思春期だったこともあるし、恐らくお母さんのことを心配していたのだろう。

 

 最終的には無事再婚する運びとなり、楓はお母さんと新しいお父さん、お姉さんの四人で暮らすことになった。

 

 お姉さんというのは、俺が今アルバイト先で一緒に働いている加恋さんのことだ。

 

「うちも父子家庭だから境遇が似てるし楓の気持ちも少しはわかるよ、まぁうちの親父は再婚しそうにないけど」

 

「カスミのお父さん、若いしカッコ良いから、その気になればすぐにできそうだけどね」

「いや……変人過ぎるから無理だろ」


 うちの親父は、親戚の家に俺を預けて六年間もアメリカに行ったり、ある日突然、超お金持ちのご令嬢と小学生の俺を婚約させたり、便利だからと言う理由だけで当時中学生だった楓に家の鍵を渡すような奇特な人物だ。

 

 気の合いそうな女性が簡単に見つかるとは思えない。

   

「わたしはカスミのお父さん好きだよ。相談しやすいし」

「華の女子高生に話しやすいなんて言われたらバカ親父が勘違いするよ」


「でも相談するのはいつもカスミのこと……」


 ん……?

 楓の言うことが途中で聞こえなくなってしまった。

 

「どうした楓?」

「なんでもない。今日は暑いね……ちょっと着替えてくるからそのまま勉強してて」


「わかった」


 室温は適温を保っていると思う。特別暑くも寒くもない。

 勉強するにはちょうどいい。

 

 でも個人差があるだろうし、楓には暑いのだろう。

 特に気にせず俺は一人勉強を続けた。

 

 しばらく経った頃……。


「おまたせ……」

「おう、遅かったな……ってえぇ――!?」


 楓を見た俺は思わず声をあげてしまった。


 膝上20cmくらいの際どい丈の白のワンピースにナースキャップ、首元には聴診器、足先から太ももまでを包む白の網タイツ、どうも見ても看護士さんスタイルだった。


「お母さんは看護士だし、子供の頃からカッコいいなと思ってて一度着てみたかったの。ど、どうかな?」

 

 真っ赤な顔をした楓が上目遣いで聞いている。

 すごく恥ずかしいのだろう……。


「えーと……なんだ。すごくかわいいし、その……似合ってると思う」

「そ、そうだんだ。ありがとう。ところでねカスミ、ちょっとお願いがあるんだけど……」


「なんだ?」

「この聴診器でカスミの身体の音を聴いてみてもいいかな?」

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