第74羽♡ 楓七変化(バージョン3:メイド)(下)


「ご主人様、おいしくなる魔法が終わりました」


 満面の笑みを浮かべる楓さん。

 悪意のカケラも感じない。


 先ほどの『美味しくなる魔法』が変に聞こえたのは心の汚れた俺が聞き間違えただけだろう。


「ありがとうございます。ではいただきます」

「ちょっとお待ちください。ご奉仕いたします。わたしがご主人様に食べさせます」


「いえいえ大丈夫です。間に合ってます」

「ご遠慮なさらずご主人様」


 楓の押しがいつになく強い。

 まぁいいか……楓がせっかくやる気になってるわけだし……。

 

「わかりました。ではお願いします」


「はい喜んで! では」

 

 今度は居酒屋風になった?

 行ったことないけど……。


 『かえで♡』と描かれたオムライスをスプーンで一口サイズに小さく切り取る。

 

「はい、あ~ん」

「あ~ん」


 口の中にオムライスが溶けていく。


 文句なし、とても美味しい――


 鶏肉、玉ねぎ、にんじんをバターで炒めた後、ケチャップで味を調えたチキンライスをふわとろの卵焼きで包んだだけのシンプルなオムライスだけど、楓が料理慣れしているせいか、やはり一味違う。

 

「もう一口いかがですか?」

「はいお願いします」


 美味しくて止まらない。

 しばらくそんなやりとりが続いた。







 

「俺はもういいから楓も食べないと。冷めちゃうし」

「では……今度はご主人様がわたしに食べさせて下さい」


「え?」

「お願いします。あ~ん」


 楓が小さな口をできるだけ大きく開ける。

 

「わかった。ちょっと待ってろよ。あ~ん」


 今度は俺が『かすみ♡』と書かれたオムライスをスプーンで切り取り、楓の口の中で運ぶ。


「モグモグ……美味しいですご主人様、もっと食べさせてください」

「おう」


 この食べさせっこはしばらく続き、昼ご飯を食べ終わるのに一時間近くかかってしまった。

 

「ふぅ~お腹いっぱいです。ご主人様」

「……そうだな」


 ご飯を食べている間は楓がぺったりとくっついていたので甘ったるい雰囲気だけが残っている。

 

「たくさん食べて頂きありがとうございます」

「こちらこそ、オムライスもだけどスープもサラダも全部美味しかったよ」


「嬉しいです。その……わたしを食べて頂いたのがちょっと恥ずかしいです」


 目をぱちくりさせて下を向いてしまう。

 恥ずかしくなっちゃったのね……。

  

 ……食べてる途中で気づいたことがある。

 

 『かえで♡』と書かれたオムライスを俺が食べる。

 同じように『かすみ♡』と書かれたオムライスを楓が食べる。

 

 俺が『かえで♡』を食べる。

 楓が『かすみ♡』を食べる。

  

 ワードだけを並べるととてつもなくエッチぃ響きになることに……。


「あの……わたし使い終わった食器を洗ってきますね」

「今度は俺も手伝うよ」


「大丈夫です。ご主人様はゆっくりしててください」


 隣に座っていた楓が勢いよく立ち上がり、すぐ横にいる俺は見送る。

 

 あっ――これはやばいヤツだ

 

 この角度にはデジャブを感じる。

 先ほどのナース服の時と同じだ。

 

 目を反らさないと……とは思った。

 でも身体が言うことを聞かなかった。

 

 ワンピースのスカート部分がめくれ上がり、黒ストッキングと下着を繋ぐガータベルト、そして邪悪なほどセクシーな白のレース付きおパンツ。それらがスローモーションで順々に見えてしまった。

 

 ぐはっああああ……

 またしても、すげ~もんを見てしまったぁああああ!

 

 それとも見せつけたのか!?

 い、いや……清楚な楓さんがそんなことするわけが……。


 でもあんな大胆な下着を持ってるくらいだし。

 いやいやファッションの一環で特別な意味などはないはず……。

 

 だけどリナの下着ラインナップにはあんな大胆なものはない。

 

『おっ兄ちゃん、わたしにもエッチぃ下着履いて欲しいのか? いいよ~ぐへへっ』


 心の奥底で、邪悪な笑みを浮かべる義妹もどきが捻じれた角と先の尖った尻尾をフリフリとさせながら囁いているような気がする。


 ――いえ、大丈夫です。

 間に合ってます。

 えっちいやつは洗濯する時に困るので……。

 

 それにしても今日は何もかもがおかしい。

 真面目なテスト勉強日だったはず。

 

 もちろんメイドな楓は非常に良かった。

 コンセプトカフェで働けば、あっという間にナンバー1になれそう。

 

 気になることと言えば、さっきのナース服もそうだったが、メイド服もサイズが合っていなかったように見える。

 

 どうしてもピチピチ感が出てしまい胸元が強調されていたし、スカート丈が短く、健康的な脚線美が丸見えだし……。

 

 心の残りがあるとするなら、メイド楓さんにもっとあんなことやこんなことを命令してご奉仕してもらえば良かったかも。

 

 そして恥辱に震える楓さん見て悦に浸る。

 うん……最高かもしれない。

 

 って何考えてるんだ俺――!?

 

 ――いかん、いかんぞ!


 こんな時こそ心頭滅却した上で秘技円周率無限暗唱! 


3.14159265358979323846264338327950288419716939937510582097494459230781640628620899 8628……。

 

 というか大切な親友で変なことを考えるんじゃね俺――!


 ところでナース楓とメイド服楓は服だけじゃなくて下着も変わってました。

 どちらも白ですが……。

 

 良くわかりませんが、そのファッションへのこだわりすごいです。

 ボクももう少し普段のお洒落に気を遣おうと思います。

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