第75羽♡ 楓七変化(バージョン4:ウサギさん)(上)


 ――午後1時45分。

 

 俺はリビングで一人勉強をしている。

 楓は本日何度目かのお色直し……いや着替え中だ。

 

 「今日は暑いね。ちょっと着替えてくるからそのまま勉強してて」を聞いたのはこれで今日、三回目だったりする。

 

 今回も楓はまた変身して戻ってくるはず。

 

 

 それにしても何なんだこの状況は?……どう考えてもおかしい。

 

 俺の親友、望月楓はとにかく真面目な少女だ。

 

 生徒手帳に書いてある校則など、ほとんどの生徒がまともに読んでいないのに暗唱できるほど読み込んでおり、規則から外れることなく常に正しくあろうとする。


 中学校で六年ぶりに再会した時もそうだった。


 あまりにも生真面目過ぎたため、周りと衝突して浮いた存在になってしまった。だから同じく浮いた存在だった俺しか話し相手がいなかった。

 

 白花学園に進学した現在は以前よりは大分融通が利くようになった。

 また進学校のため優等生が多く、楓の姿勢に理解を示す生徒も多い。

 

 そんな楓が、ナース、メイドのコスプレ。

 しかもとてもつもなくエロい……。

 

 全くもって楓らしくない。

 

 ひょっとして俺が知らなかっただけで実はコスプレ趣味があったとか……

 

 いや、ないよな……。

  

 俺が知ってる限り楓は二次元の知識が豊富ではない。


 日曜日夜6時台の日常定番アニメや、海賊が出てくる国民的アニメなどを多少知っている程度。


 以前、深夜アニメをよく見ていると伝えた時も『夜遅くにアニメやってるんだね』と言っていたくらい知らない。

 

 ゲームも同様に疎い。


 ウチで受験勉強の息抜きでゲームをやった時も、某有名カートゲームはスタート直後に見事に逆走し、あげく最弱設定にしたNPCにも完敗した。ゾンビを銃で撃退するゲームも、あっという間にゾンビの餌食になった。

 

 そんな楓がコスプレ……全く結びつかない。

 ひょっとして本当に誰かに仕組まれた結果なのか?

 

 でも何のために?

 他の天使同盟メンバーにコスプレを進められたとかは……ないと思う。

 

 じゃあクラスメイトとか……

 可能性はゼロではないにしろ、進められたところで楓がコスプレするとは思えない。

 

 では怪しいこと、この上ない非公式生徒会はどうか……

 可能性は否定できない。

 

 でも楓にコスプレさせて非公式生徒会の何のメリットがある?

 

 ダメだ……全然わからない。 

 

 他に楓に影響力のある人物いないか。

 

 中学時代には短い間だけど、俺と楓の間に挟まるような位置に後輩が一人いたことがある。

 でも、あの子はもう俺たちに接触してくることはないだろう……。

 

 他には――

 

 ――1人だけいる。しばらく会ってないから忘れてた。

 

 楓に絶大な影響力があり、普段から禄でもない言動を繰り返す人物が。

 俺はスマートフォンを取り出すとすぐにRIMEで被疑者にメッセージを送った。

 


 カスミン『こんにちは 楓をそそのかしたのはあなたですね』 


 かれんちゃん『唆したなんて人聞きが悪いでヤンス。むしろ礼を言って欲しいでヤンス! で、どこまで行ったでヤンスか? シンデレラと大人の階段を三段跳でヤンスか?』


 語尾がおかしい……でもめんどくさいからツッコむのは止めておこう。

 

 被疑者はあっさりと自白した。

 というか隠す気すらないらしい。


 カスミン『何もないのでご心配なく』


 かれんちゃん『うそ!? あのダイナマイトバディとセクシーコスプレを見て何とも思わないの? カスミンの中の男は死んだの? 既に身も心も女子おなごなの?』


 すご~くえっちぃ気持ちにはなったけど、メイドやナースの姿は普段の楓とギャップがあり過ぎて、俺もどこか引き気味だったと思う。

   

 カスミン『普通に男です。それより楓に変なことさせないでください』


 かれんちゃん『変なことなんてさせてないよ~かわいい妹の応援をしただけだよ~それよりおねえさん傷ついた~( ノД`) 傷を癒すため東海道五十三次全踏破、傷心旅行にLet’s GOするわけよ~ んじゃ、ばいちゃ☆彡 あ、あたしまだ叔母になりたくないから! そこんとこシクヨロ!」


 以降、楓のお姉さん加恋さんこと『かれんちゃん』からメッセージは返ってくることはなかった。

 

 でもこの黒幕が分かったのでもう大丈夫。

 

 どう言いくるめたのかわからないが、全ては加恋さんの陰謀であり、楓はめられたに過ぎない。

 

 次にどんなコスプレをして戻って来ようが『無理してコスプレをしなくていい。加恋さんのイタズラだから』と告げればいい。

 

 ちょっぴり……かなりえっちなコスプレ大会は終わり、本来あるべき真面目な勉強会に戻るはず。

 

 ……ちょっと惜しいけど。

 

 ナース、メイドときたので、次のコスプレは婦警さん当たりかな。

 多少目のやり場に困るかもしれないが、鉄の意志で対応しよう。

 

 大丈夫……最近、男子には厳しい試練をいくつも潜り抜けてきた。

 

 きっと今回も乗り越えられるはず……。

 

「おまたせ~」

「おう」


 俺は視線の先にいる楓を見据える。

 ――次の瞬間、俺は石になった。


 そして緒方霞の鉄の意志は絹豆腐よりも柔らかくなり、崩れ去った。

  

 目の前の楓は黒のうさ耳カチューシャ、エナメル素材でハイレグカットのボディスーツ、黒のリボンの付いた付け襟、そして両足を包む網タイツ、さすがにハイヒールは履いていなかったものの、16歳とは思えない色っぽい姿になっていた。

 

「あ、うさぎさん……」


 無意識のうちに、言葉が漏れた。

 

 黒のうさ耳がひょこひょこ揺れる。


 本日四回目の変身を遂げた楓は、なんともセクシーなバニーガールになっていた。

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