第99羽♡ 噂のひとり歩き
「前園の事が好きなのにどうして距離を取ろうとするんだ?」
「それはね……」
「中三になった辺りからわたしたちには沢山の噂が流れるようになったの……
ほとんどはわたしやお凛ちゃんが話したこともない同級生や上級生と付き合ってるみたいな内容で、でたらめだったけど、わたしとお凛ちゃんの仲が怪しいっていうものもあった。 わたしがお凛ちゃんのことを一方的に好きだっただけで、何もなかったのにね。
去年の白花祭と冬星館で一晩出られなくなった事件の後は、それまで以上にわたしたちを色々言われるようになって、 教室で話すことも、部活動も継続するのも難しくなった……だから、ふたりで話をして、落ち着くまでは距離を置くことにしたの。学校で話さなくても学校の外では話せるしね。
距離をおいても噂は止まなかった。
それどころか、バレるはずのないお凛ちゃんのバイト先のことまで噂されるようになった。 もうどうすればいいか分からなくなったから信頼できるバイト先の人に相談したの」
「ひょっとして時任先輩のこと?」
「うん……やっぱり知ってるんだね蓮さんのこと。
彼の意見は噂には噂で対抗するというものだった。
わたしと蓮さんで中等部と高等部にそれぞれ三つの噂を流したの、一つ目は時任先輩とわたしが付き合ってるという噂、二つ目は時任先輩がわたしを振ったという噂、最後にわたしが時任先輩を振ったという噂、噂を流した頃は丁度、蓮さんが出演してたヒーロー戦隊ものがヒットした頃で中等部、高等部問わず注目度はピークに達していた。
加えて噂をリアルに感じてもらうため、目に付くところで一度昼ご飯をふたりで食べたの。
後は蓮さんの読み通り、噂は凄いスピードで学園内を駆け回ったよ、わたしとお凛ちゃんの噂はすぐに立ち消えになった」
「何のために三つも噂を流したんだ?」
「噂が広がり皆が夢中になれば、わたしたちが守りたかったもの、お凛ちゃんを遠ざけることができると思った。噂が三つだったことには意味はないの、どれでも良いから、わたしとお凛ちゃんの噂を塗りつぶして欲しかっただけ」
「ひょっとして時任先輩も前園のことを……」
「どうかな……でも蓮さんがお凛ちゃんに向ける視線はいつも優しかった」
時任蓮の立場からすれば前園とすーちゃんの問題に首を突っ込むのは火中の栗を拾うようなものだ。
旧知のすーちゃんに相談されてたから解決策をだした。ただ、このやり方では彼自体が巻き込まれてしまう欠点がある。芸能人である彼の恋愛話が広まることはデメリットしかない。
また、すーちゃんが時任先輩と噂になることは、目立ちたいとか考えているならともかく、僻みや妬みの対象になる可能性が高い。実際に付き合うわけでもないならメリットがない。
この方法では前園しか救えない。
「すーちゃんが中等部で大変だったのはよくわかった。でも高等部の今は前園と距離を取る必要がないだろ」
時任先輩はこの春卒業した。高等部入学後は前園とすーちゃんはクラスが違う。それに前園は放課後にバイトがあるし、すーちゃんは部活がある。ふたりでいられる時間は中等部時代より少ない。わずかな時間一緒にいたところで仲の良い同級生が話をしてる程度にしか見えないはず。
「そうだね、でもダメなんだよ」
「どうして?」
「わたしはお凛ちゃんの友達以上になりたいの。でもお凛ちゃんはわたしのことは友達って言ってたでしょ……友達のままでお凛ちゃんのそばにいるのはもう耐えられない」
「前園には気持ちは伝えたの?」
「それっぽいことを言った事は何度かあるけど多分伝わってない」
「だったらちゃんと伝えないと」
「届かないよね……でも伝えたところで気持ちに応えてもらえるかな?」
「それは」
「わからないよね……わたしもわかってるよ。失恋することに恐がってたら恋愛できないこれ以上進めない。だから気持ちは伝えないといけない。でもね……恐くてできないよ」
「だったら……すーちゃんが恐くない様に俺がそばにいるよ」
「ありがとう。でもかーくんは約束するとまたいなくなっちゃうでしょ」
今から10年前、俺はすーちゃんのそばから突然いなくなった。
小さな子供だったからどうにもできなかったけど、すーちゃんを傷つけるには十分過ぎた。
「もうどこにも行かない」
「かーくんがずっとそばにいてくれれば、わたしはこんな苦しい想いをしないで済んだのに」
「ごめんねすーちゃん」
「言葉ではどうとでも言えるよ」
「じゃあどうすればいい?」
「自分で考えて」
すーちゃんはさっきから俺に身体を預けたままだ。
髪と同じグレーとベージュの中間のような色の瞳も先ほど塞いだ柔らかな唇もすぐそこにある。
今そっと塞いでも大丈夫かな?……さっきと同じように
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